白地の中央に、黄色いハクトウワシ。その爪には月桂樹と3本の青い矢を握り、両側には青い「V」と「I」の文字が配されています。アメリカ領ヴァージン諸島の旗は、カリブ海の小アンティル諸島にあるアメリカ合衆国の海外領土の旗です。漫画家パーシヴァル・W・スパークスのスケッチを、妻と義妹が刺繍して仕上げたという、家族の手仕事から生まれた1枚。今回はそんなアメリカ領ヴァージン諸島旗の話です。


まずは構成のおさらい

アメリカ領ヴァージン諸島旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:白
  • 中央:黄色(金)のハクトウワシ
  • ワシの右の爪:月桂樹の小枝(勝利)
  • ワシの左の爪:3本の青い矢(3つの主要島)
  • ワシの両側:青い「V」と「I」の文字(Virgin Islandsの略)

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :雲、純粋さ
  • 黄(金):諸島の花
  • :諸島を取り囲む海
  • :愛
  • :諸島の丘
  • 3本の矢:セント・クロイ島、セント・トーマス島、セント・ジョン島の3つの主要島

アメリカ国章を簡素化したデザインに、V.I.の文字を添えた、典型的なアメリカ領土旗のデザインです。


「3本の矢」 ── 3つの主要島

アメリカ領ヴァージン諸島旗の、最も独特なシンボルを見ていきます。

アメリカ国章 vs ヴァージン諸島旗

アメリカ国章のハクトウワシは、13本の矢を握っています。これはアメリカ建国時の13植民地を表すものです。

しかしヴァージン諸島旗の矢は、3本です。最大のセント・クロイ島、首都シャーロット・アマリーのあるセント・トーマス島、そして最小で人口最少のセント・ジョン島という、3つの主要島を表しています。

領土の3島を3本の矢で表すというのは、アメリカ星条旗系の海外領土旗にお決まりのパターンです。


1921年5月17日 ── 領土旗の誕生

アメリカ領ヴァージン諸島旗は、100年以上前に誕生しました。

サムナー・E・W・キトル提督

1921年4月26日、サムナー・E・W・キトル海軍提督が領土知事に就任します。アメリカ領ヴァージン諸島は1917年にデンマークから購入したばかりで、キトル提督は領土独自の旗が必要だと提案しました。

パーシヴァル・W・スパークス

旗のデザイナーは、パーシヴァル・ウィルソン・スパークス(Percival Wilson Sparks)です。漫画家でありイラストレーターでもあった彼は、キトル提督から依頼を受けて、即座に紙にスケッチを描きました。

妻と義妹の刺繍

そして完成版の旗を刺繍したのは、スパークスの妻グレースと、義妹のブランシュ・ジョセフでした。漫画家がデザインし、妻と義妹が刺繍するというこの成り立ちは、リベリアの7人の女性や、ハイチのカトリーヌ・フロンと並ぶ、女性が国家・領土旗を縫った稀な例です。

1921年5月17日、正式採用

そして1921年5月17日、アメリカ領ヴァージン諸島旗が正式に採用されました。以後、100年以上にわたって変更されていません。


アメリカ領ヴァージン諸島という領土

アメリカ領ヴァージン諸島の基本情報です。

  • 正式名:アメリカ領ヴァージン諸島(United States Virgin Islands)
  • 首都:シャーロット・アマリー(Charlotte Amalie、セント・トーマス島)
  • 面積:約347km²
  • 人口:約8.7万人
  • 公用語:英語
  • 法的地位:アメリカ合衆国の未編入領土

「デンマークから購入」

アメリカ領ヴァージン諸島には、意外な歴史があります。1672年から1917年まではデンマーク領(デンマーク領西インド諸島)であり、1917年3月31日にアメリカが当時の金額で2,500万ドルを支払ってデンマークから購入しました。この1917年の購入は、第一次大戦中のドイツ潜水艦基地化を防ぐためでもありました。

カリブ海にあったデンマーク王国の海外領土が、アメリカ領になったという、興味深い領土史です。

「ヴァージン諸島」の名前

「ヴァージン諸島」という名前を命名したのは、クリストファー・コロンブスです。1493年に諸島を発見したコロンブスが、聖ウルスラと11,000人の処女(Saint Ursula)の伝説にちなんで、「Las Once Mil Vírgenes(11,000人の処女)」と名づけました。

この「11,000人の処女」は、4世紀の聖ウルスラの殉教伝説によるものです。現代から見ると奇妙な命名ですが、当時のキリスト教文化を反映しています。

「カリブ海観光地」

アメリカ領ヴァージン諸島は、カリブ海の主要観光地です。クルーズ船の寄港地としては世界トップクラスで、アメリカ本土からビザなしで訪問できます。セント・ジョン島には、ヴァージン諸島国立公園があります。

「左ハンドル国で右側通行」?いや、その逆

アメリカ領ヴァージン諸島には、世界的に珍しい交通ルールがあります。アメリカ領なのに、車は左側通行なのです。これはデンマーク領時代の名残で、1672年以来の左側通行が続いています。しかも走っている車はアメリカ仕様の左ハンドル車が主流です。左側通行に左ハンドルという、世界でも極めて珍しい組み合わせになっています。


まとめ:1921年の刺繍、3つの島の矢

今回のアメリカ領ヴァージン諸島旗のまとめです。

  • 白地に、中央の黄色いハクトウワシ、3本の青い矢、月桂樹、両側の青い「V」「I」文字
  • 1921年5月17日、正式採用
  • キトル海軍提督が提案し、漫画家パーシヴァル・W・スパークスがデザイン
  • スパークスの妻グレースと義妹ブランシュ・ジョセフが刺繍
  • アメリカ国章の簡素化版(13本の矢を3本に変更)
  • 3本の矢はセント・クロイ、セント・トーマス、セント・ジョンの3主要島
  • 白は雲、黄は花、青は海、赤は愛、緑は丘
  • 1672年から1917年までデンマーク領(デンマーク領西インド諸島)
  • 1917年3月31日、アメリカが2,500万ドルでデンマークから購入
  • 「ヴァージン諸島」は1493年にコロンブスが「11,000人の処女」聖ウルスラ伝説にちなんで命名
  • 首都シャーロット・アマリー、面積約347km²
  • アメリカ領なのに左側通行(デンマーク領時代の名残)

漫画家のスケッチを家族が刺繍した旗。アメリカ領ヴァージン諸島の旗は、100年以上前の家族の手仕事から生まれた、カリブ海のアメリカ領土の温かい1枚です。