赤・白・青のおなじみの十字旗、ユニオンジャック。世界でいちばん有名な国旗のひとつだと思います。でもよく見ると、ちゃんと左右対称じゃないって、知っていましたか。しかも逆さまに掲揚すると失礼にあたる、というのも。今回はそんなユニオンジャックの細かい話です。
まずは構成のおさらい
イギリスの国旗(ユニオンジャック、またはユニオン・フラッグ)は、3つの十字を重ね合わせた合体旗です。
構成する3つの十字
| 十字 | 由来 | |
|---|---|---|
| 1 | 赤の正十字(白地に赤) | 聖ジョージ十字:イングランドの守護聖人 |
| 2 | 白の斜め十字・X字(青地に白) | 聖アンドリュー十字:スコットランドの守護聖人 |
| 3 | 赤の斜め十字・X字(白地に赤) | 聖パトリック十字:アイルランドの守護聖人 |
これら3つを同時に1枚に重ねることで、現在のユニオンジャックができあがります。よく見ると「正十字+斜め十字×2」の構造になっていることがわかります。
「合体」の歴史をたどってみる
3つの十字は最初から1つの旗にあったわけではなく、段階的に合体してきました。
1603〜1606年:イングランド+スコットランド
最初の合体は1606年です。1603年にスコットランド王ジェームズ6世がイングランド王位を継承してジェームズ1世として両国の王を兼ね(同君連合)、その3年後の1606年4月12日、王令によって両国の象徴を1枚に合わせた旗が船舶用に制定されました。これが初代ユニオンジャックです。
ちなみに「ジャック(Jack)」の語源は、ジェームズのラテン語名「ヤコブス(Jacobus)」にちなむ、という説があります。
1707年:グレートブリテン王国成立
ジェームズの旗が、王の個人連合の象徴から「グレートブリテン王国」の正式な国旗に格上げされたのが1707年です。ここまでは「2つの十字」だけのデザインでした。
1801年:アイルランドが加わる
そして1801年1月1日、1800年連合法によりアイルランドが連合王国(United Kingdom)に加わり、聖パトリック十字(赤の斜め十字)が追加されました。これが現行ユニオンジャックの完成版です。
つまりこの旗は、まる224年以上、デザインがほぼ変わっていないということになります。
「Counterchange」という職人技
ここで起こったデザイン上の問題が、けっこうおもしろい話です。
すでに旗にはスコットランドの白の斜め十字(X字)がありました。そこへアイルランドの赤の斜め十字(X字)を足そうとすると、同じ斜めライン上で重なってしまいます。普通に重ねると、片方が完全に隠れてしまうわけです。
そこで使われたのが、カウンターチェンジ(counterchange)という紋章学のテクニックでした。斜めラインを白と赤で交互に分割して、両方が見えるようにしたんです。
ルールは「白の後に、赤が時計回りに続く」というもの。つまり白い斜め線(聖アンドリュー)が上、赤い斜め線(聖パトリック)が下になる位置関係で配置されています。これがスコットランドのほうが先に連合に加わったという序列を反映している、という解釈です。
左右非対称だから、「逆さま」がある
このカウンターチェンジの仕組みのせいで、ユニオンジャックは完全な左右対称ではありません。
旗の上部の左右を見比べると、旗竿側(左側)の上半分で、太い白の斜め線が赤い斜め線の上側に来るのが正しい掲揚方法です。逆になっていると「逆さま掲揚」になります。広い白が、旗竿側の上にある状態が正しい向きなのです。
これは伝統的には、平時に逆さまに掲げると侮辱・無礼にあたり、海上で逆さまに掲げると遭難信号として扱われる、なかなか強い慣習があります。国旗を掲げるとき、向きを間違えると失礼にあたる国というのは、なかなか珍しいものです。
逆さまかどうかを見分けるコツは2つあります。ひとつは、旗竿側(左上)の白い斜め線が赤の上に来ていればOKということ。もうひとつは、広い白の斜め線が右側の下方向を向いていればOKということです。慣れると一瞬で判別できますが、知らないとずっと「対称な十字旗」と思い込んでしまうところです。
ウェールズが入っていない理由
ユニオンジャックを構成する3つの十字では、イングランド・スコットランド・北アイルランドは表されていますが、ウェールズはどこにも含まれていません。
理由は、ウェールズがユニオンジャックの作られた時点で、すでにイングランドの一部とされていたからです。
1535年と1542年のウェールズ法で、ウェールズは法的にイングランド王国に編入されており、その後の合体旗(1606、1707、1801)では「すでに英国側に組み込まれた地域」として扱われたわけです。
ウェールズ国旗(赤いドラゴンの白緑旗)はとても有名ですが、ユニオンジャックには入っていません。これがウェールズの人にとっては「ちょっと残念ポイント」になっていて、何度かウェールズの要素を入れる議論が出ていますが、今のところデザインは変わっていません。
「Union Jack」と「Union Flag」、どっちが正しい?
ちょっとマニアックな話を最後に。
Jack(ジャック)は、本来「船首に掲げる小型の旗」を意味する海軍用語です。なので技術的には、船で掲げるときは「Union Jack」、陸上で掲げるときは「Union Flag」が正しい、という考え方もあります。
ただ、長い慣習で「Union Jack」のほうが圧倒的に有名になり、現在では陸上で掲げる国旗のことも「Union Jack」と呼んで問題ない、というのが王室の公式見解です。区別にこだわるのは旗章学マニアくらい、という感じです。
まとめ:見れば見るほど発見がある国旗
今回のユニオンジャックのまとめです。
- 3つの十字(聖ジョージ・聖アンドリュー・聖パトリック)を重ねた合体旗
- 1603年にジェームズ1世が両国王を兼ね、1606年4月12日の王令で初代合体旗、1707年にグレートブリテン王国、1801年にアイルランド追加で現在の形に
- 同じ斜め十字を重ねるため「カウンターチェンジ」で白と赤を交互配置
- 結果として左右非対称になっており、逆さま掲揚は侮辱や遭難信号にあたる
- 「広い白の斜め線」が旗竿側の上に来るのが正しい掲揚
- ウェールズはユニオンジャックに入っていない(1535/1542年の時点で法的にイングランドに編入されていたため)
- 「Union Jack」は本来は船首旗の意だが、現在は陸上の国旗もこう呼んで問題なし
シンプルそうで、見れば見るほど発見がある国旗です。224年ほぼ変わっていないデザインのなかに、英国史がぎっしり詰まっています。