水色の地に、左上のユニオンジャック、右側に9つの黄色い星。ツバルの国旗です。9つの星は、ツバルを構成する9つの島々を表し、しかも実際の地理を反映して配置されているのが特徴です。そしてこの国は今、海面上昇で国土の存続が問われているという、現代でもっとも切実な状況に置かれた国でもあります。今回はそんなツバル国旗の話です。
まずは構成のおさらい
ツバル国旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:水色(ライトブルー)
- 左上のカントン:ユニオンジャック
- 右側のフライ半分:9つの黄色い五芒星
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 水色:太平洋。ツバルを取り囲む広大な海
- ユニオンジャック:イギリス連邦の一員としての歴史
- 9つの星:ツバルを構成する9つの島
南太平洋の旧英連邦旗ファミリーで、フィジー・オーストラリア・ニュージーランドなどと同じく、ユニオンジャック入りのデザインです。
9つの星は、9つの島
ツバル国旗の最大の特徴は、9つの黄色い星が、実際の島の位置を地理的に再現していることです。
9つの島
ツバルは、南太平洋のポリネシア地域に散在する9つのサンゴ礁・環礁で構成されています。
| # | 島の名前 | 位置 |
|---|---|---|
| 1 | ナヌメア(Nanumea) | 最北端 |
| 2 | ナヌマンガ(Nanumanga) | 北部 |
| 3 | ニウタオ(Niutao) | 北部 |
| 4 | ヌイ(Nui) | 中央北 |
| 5 | ヴァイトゥプ(Vaitupu) | 中央 |
| 6 | ヌクフェタウ(Nukufetau) | 中央 |
| 7 | フナフチ(Funafuti) | 首都・中央 |
| 8 | ヌクラエラエ(Nukulaelae) | 南東 |
| 9 | ニウラキタ(Niulakita) | 最南端、最小 |
国旗の9つの星は、これら9島を地理的な位置関係そのままに配置しています。旗の上で9つの星が実際の島々の相対位置を再現するように並べられており、最北端のナヌメアが右上、最南端のニウラキタが左下というように、独特の角度で配置されています。星の大小も、おおむね島の大きさを反映しています。国旗がツバルの地図そのものという、ユニークな設計です。
「ツバル」は「8つ立つ」── でも星は9つ
ここで、ちょっと不思議な話があります。
国名「ツバル」の意味
ツバル語で「Tuvalu」は、「8つ立つ」「8つ集まる」を意味します。「Tu」は立つ、ある、「Valu」は8です。つまり国名そのものが「8」を含んでいるのです。
なぜ「8」なのか
これは、ヨーロッパ人が最初に来航した時期や、19世紀から20世紀前半の植民地時代に、伝統的に居住されていた島が8つだったからです。9島のうち、最南端のニウラキタは長らく無人島でした。歴史的に人が住んでいた島は8つ、すなわち「8つの島の連合」が「ツバル」というわけです。
旗の星は「9」
ところが、国旗の星は9つあります。無人島だったニウラキタを含めて、9島すべてを象徴しているのです。伝統的な8島にニウラキタ1島を加えて、9つの星というかたちです。
実は、ニウラキタは1949年にニウタオ島民が移住して有人化しており、1978年の独立時にはすでに9島すべてに人が住んでいました(現在はわずか30人ほどが住んでいます)。「独立時には無人だったから星が9つ」というのは誤解で、むしろ国名のほうが、伝統的な8島の数を反映していたという歴史的経緯にあります。
国名は伝統的な「8」、旗は実態に合わせた「9」。このちょっと不思議なずれは、無人島も含めてツバルは1つ、という意識の表れとも読めます。
1995-1997年、ユニオンジャック撤去の試み
ツバル国旗には、意外な変更の歴史があります。
1995年、新国旗
1995年、ツバル政府は国旗を変更しました。ユニオンジャックを完全に撤去し、デザインを大幅に変更したのです。水色を維持しつつ、9つの星の配置を変え、紋章を加えた新デザインでした。
理由は、植民地時代の名残であるユニオンジャックを独立国家から消したい、より独自のアイデンティティを表現したい、というものでした。完全に英連邦色を消すという、独立国家としての強い主張です。
国民の反発
ところが、国民の多くがこの変更に反対します。ユニオンジャックは英連邦との絆を示す大切なシンボルであり、先祖代々親しんだ旗を変えるのは寂しい、という声でした。特にツバル人は伝統的にイギリス連邦への愛着が強く、女王(エリザベス2世)を国家元首とすることに誇りを持っていました。
1997年、原型復活
1995年4月の総選挙で政権交代が起こり、新政府は国旗を1978年版(ユニオンジャック入り)に戻すことを決定します。1997年4月11日、元のデザインが復活し、以来、変更されていません。
国民が望んだ旗が、結局戻ってきた。民主主義の象徴的な出来事でした。
1978年10月1日、ギルバートから独立
ツバルの独立は1978年10月1日です。ギルバート諸島(現キリバス)からの分離独立でした。
ギルバート&エリス諸島
1892年以降、ツバルは英領ギルバート&エリス諸島の一部でした。北部のギルバート諸島が現在のキリバス、南部のエリス諸島が現在のツバルです。1つの植民地のなかに、文化的に違う2つのグループがあるという構造でした。ギルバート(北)はミクロネシア系民族、エリス(南)はポリネシア系民族(ツバル人)です。
分離独立への動き
1970年代、ツバル人は「文化的に違うギルバート人と1つの国にはいたくない」と主張します。1974年の住民投票では圧倒的多数で分離を支持し、1975年10月1日にエリス諸島が「ツバル」として分離(独立はまだ)、そして1978年10月1日に完全独立を果たしました。民族の違いを理由に、平和的に分離独立を達成したという、世界でも稀な例です。
ギルバート(キリバス)とエリス(ツバル)の旗を比べるという観点でも興味深いところです。キリバスは赤い空にグンカンドリと太陽、青い海を描いた絵画的デザイン、ツバルは水色にユニオンジャックと9つの星です。同じ植民地から分かれた2つの国の、まったく違うアプローチというのが、両国の旗を見る面白さです。
気候変動と「国土消滅」の脅威
ツバルが現代でもっとも世界的に注目される理由は、気候変動による海面上昇で、国土の存続が脅かされていることです。
ツバルの地理
ツバルは、サンゴ礁・環礁からなる極めて低い島々です。国土の最高標高は約4.6m、平均標高はわずか2m、国土面積は26km²(東京千代田区の約2倍)で、大半は海面ぎりぎりにあります。世界でもっとも標高の低い国のひとつです。
海面上昇
気候変動による海面上昇で、深刻な事態が進んでいます。過去50年間でツバル周辺の海面は約15cm上昇し、満潮時には首都フナフチの道路が冠水することが頻発しています。塩水が真水の井戸に侵入し、農業への被害も出ています。「2050年までに、ツバルは住めなくなる可能性がある」と複数の研究が警告しています。
世界初の「気候難民」?
ツバル政府は、国民の移住計画を進めています。オーストラリア・ニュージーランドへの移住協定を結び、「気候変動による初の国家消滅」となる可能性に備え、国連気候変動会議(COP)でも常に発言を続けています。国旗の星が示す9つの島が、文字どおり消えていくという、現代でもっとも深刻な国家の危機です。
「メタバース国家」構想
そして2022年、ツバル外相サイモン・コフェは、COP27でこう発言しました。
「我々は、世界初の『デジタル国家』になる準備をしている。メタバース空間に、ツバルの文化と国土を保存する」
国土が物理的に消えても、デジタル空間で国家を存続させるというSF的な計画です。国旗のシンボルが、デジタル空間に移行する可能性もあるというわけです。世界で最初に消える国の旗になってしまう可能性が、残念ながらあります。
ちなみに:「.tv」ドメイン
ツバルが世界に知られるもうひとつの理由が、インターネット国別ドメイン「.tv」です。ツバルの国別TLD(top-level domain)が「.tv」で、テレビ・動画関連サイトに人気があり、ベリサイン社などにライセンス販売されています。国家予算の重要な収入源(GDPの数%)になっています。
国名の頭文字TVが、世界中のテレビ関連サイトの代名詞になるというのは、世界でもツバルだけのユニークな経済モデルです。気候変動で消えるかもしれない国が、インターネット時代の象徴的なドメインを握っているというのは、なかなか皮肉な話でもあります。
まとめ:9つの島と、海面上昇のなかで
今回のツバル国旗のまとめです。
- 水色地に左上にユニオンジャック、右側に9つの黄色い星(地理的配置)
- 1978年10月1日採用、デザイナーはヴィオネ・ナタノ
- 水色は太平洋、ユニオンジャックは英連邦、9つの星は9つの島
- 9つの星は実際の島の位置を反映(地図のように配置)
- 国名「Tuvalu」は「8つ立つ」(伝統的に有人だった8島に由来。1949年にニウラキタも有人化し、独立時には9島すべて有人だった)
- 1995-1997年、ユニオンジャックを撤去する変更が試みられたが、国民の反発で原型復活
- 1892-1978年、英領ギルバート&エリス諸島の一部(南がエリス、後のツバル)
- 1975年に分離、1978年完全独立(民族の違いのため平和的分離)
- 国土の最高標高約4.6m、海面上昇で国家存続の危機
- 2022年「デジタル国家」構想(メタバース上に国土保存)
- ドメイン「.tv」が国家予算の重要な収入源
国旗の9つの星が、いつまで9つのままでいられるか。ツバルの旗は、国家とは何かを、現代に問う1枚です。