雪山の上に黄色い太陽と赤・青の光線、その手前で2頭の雪獅子が宝珠を支える。チベットの雪山獅子旗(せつざんししき)、ヒマラヤのチベット人のシンボルです。第13代ダライ・ラマが自らデザインした旗ですが、現在、中国本土では掲げることが禁止されています。今回はそんなチベット旗の話です。
まずは構成のおさらい
チベット旗(雪山獅子旗)の構成は、次のとおりです。
- 中央下部:白い雪山(チベット高原)
- 雪山の上:黄色い太陽と、赤と青の12の光線
- 雪山の手前:2頭の雪獅子(宝珠を支える)
- 周囲:黄色い縁取り
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 雪山:チベットの大地(チベット高原)
- 6本の赤い光線(青空の上):チベット人の祖先の6部族(セ・ム・ドン・トン・ドゥ・ラ)
- 黄色い太陽:自由、精神的・物質的な幸福
- 2頭の雪獅子:精神(宗教)と世俗(政治)の統一の勝利
- 宝珠:三宝(仏教の理想)
ヒマラヤの自然と、チベット仏教、6部族の歴史。密度の高い旗です。
「2頭の雪獅子」 ── 政教の統一
チベット旗の、最も重要なシンボルを見ていきます。
雪獅子
雪獅子(Snow Lion)は、チベットの伝説の聖獣です。ヒマラヤの雪山に住むとされ、チベットの国獣的な存在で、力・勇気・喜びの象徴とされています。
政教の統一
2頭の雪獅子が支えるのが、宝珠です。これはチベットの精神(宗教)と世俗(政治)の統一の勝利を表します。ダライ・ラマが宗教と政治の両方の指導者だった政教一致を象徴するもので、ブータン(政教二元論)と並ぶ、ヒマラヤ仏教国家の統治理念を示しています。
ブータンの記事の龍と並ぶ、ヒマラヤ仏教のシンボル。それがチベットの雪獅子です。
第13代ダライ・ラマのデザイン
チベット旗の起源を見ていきます。
1912-1916年、独立の象徴
1912-1913年、清朝が崩壊しました。チベット軍がラサから清朝の駐留軍を追放し、第13代ダライ・ラマ(トゥプテン・ギャツォ)がチベットの主権を宣言、1916年頃に新しい旗を制定します。
ダライ・ラマ自身がデザイン
そして、第13代ダライ・ラマが自らデザインしました。伝統的なチベットの軍旗を統一したもので、ダライ・ラマがプロトタイプを承認し、仕立て屋が制作したと伝えられています。
日本人僧侶の影響
そして、ここには意外な事実があります。青木文教(Aoki Bunkyo、日本の浄土真宗の僧侶)がデザインに協力し、日本の旭日旗の太陽と光線のモチーフを加えたと言われています。日本の影響を受けたチベットの旗、というわけです。
チベットの伝統シンボルに、日本の旭日旗の影響が加わる。興味深い国際的な背景です。
1959年以降 ── 中国による禁止
チベット旗の現代の状況を見ていきます。
1950-1959年、中国の併合
1950年、中華人民共和国がチベットに進駐しました。1951年に十七か条協定が結ばれ、1959年にはチベット蜂起が起こり、第14代ダライ・ラマがインドに亡命します。
中国本土での禁止
そして現在、チベット旗は中国本土で禁止されています。チベット自治区で雪山獅子旗を掲げると逮捕され、分離独立の象徴として違法とされています。
亡命政府での使用
しかし、チベット亡命政府(Central Tibetan Administration)はこの旗を使用しています。インド・ダラムサラに拠点を置き、第14代ダライ・ラマのもと、世界中のチベット支援団体がこの旗を掲げています。
国旗の太陽は自由を表しますが、故郷では掲げられない。重い現実です。なお諸説あり、評価は政治的立場により大きく異なります。
チベットという地域
チベットの基本情報です。
- 名称:チベット(Tibet、チベット語:བོད་、プー)
- 中心都市:ラサ(Lhasa)
- 法的地位:中華人民共和国のチベット自治区(中国の主張)/チベット亡命政府が独立を主張
- 公用語:チベット語・中国語
- 宗教:チベット仏教
「世界の屋根」
チベットは、ヒマラヤ山脈のチベット高原に広がります。平均標高は約4,500mで、「世界の屋根」と呼ばれ、エベレスト(チベット語:チョモランマ)の北側に位置します。
「ダライ・ラマ」
ダライ・ラマは、チベット仏教の最高指導者です。現在は第14代ダライ・ラマ(テンジン・ギャツォ)で、1989年にノーベル平和賞を受賞し、1959年からインドに亡命しています。
「ポタラ宮」
チベットの世界遺産が、ポタラ宮です。ラサにあるダライ・ラマの宮殿で、ユネスコ世界遺産に登録された、チベット仏教の聖地です。
まとめ:雪山と獅子、禁じられた旗
今回のチベット旗のまとめです。
- 雪山に、黄色い太陽と12の光線、2頭の雪獅子、宝珠、黄色い縁取り
- 「雪山獅子旗」
- 第13代ダライ・ラマ(トゥプテン・ギャツォ)が自らデザイン
- 1912-1913年の清朝崩壊後、チベットの主権を宣言、1916年頃に制定
- 日本人僧侶・青木文教がデザインに協力(旭日旗のモチーフを加えた)
- 雪山はチベット高原、6本の赤い光線は祖先の6部族、太陽は自由、2頭の雪獅子は政教統一、宝珠は三宝
- 雪獅子はチベットの伝説の聖獣(ヒマラヤの雪山に住む)
- ブータンの龍と並ぶヒマラヤ仏教のシンボル
- 1950年に中国がチベットに進駐、1959年のチベット蜂起で第14代ダライ・ラマがインド亡命
- 現在、中国本土では雪山獅子旗の掲揚が違法(分離独立の象徴とされる)
- チベット亡命政府(インド・ダラムサラ)と世界の支援団体が使用
- チベットは「世界の屋根」、平均標高約4,500m
- ダライ・ラマは1989年にノーベル平和賞受賞、ポタラ宮はユネスコ世界遺産
- 評価は政治的立場により大きく異なる(諸説あり)
ダライ・ラマが描いた、雪山と獅子の旗。チベットの雪山獅子旗は、ヒマラヤ仏教の精神を体現し、現在は故郷で掲げられない、複雑な歴史を持つ1枚です。