水色の地に、黄色い丸。パラオの国旗は、日の丸そっくりですが、実は太陽ではなく満月を描いた旗です。日の丸との関係は「偶然の一致」だと、デザイナー本人が明言しています。世界の国旗のなかでも、もっとも「似ているけど違う」1枚。そして、1,000件の応募から選ばれた、パラオ人によるデザインでもあります。日の丸・バングラデシュと続いた「丸い旗3部作」の最終回として、今回はそんなパラオ国旗の話です。
まずは構成のおさらい
パラオ国旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:水色(ライトブルー)
- 中央やや旗竿側:黄色(金)の満月
- 比率:5:8
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 水色:太平洋、空、外国統治からの自立
- 黄色い丸:満月。漁・農業・カヌー作りに最適な時期の象徴です
- 満月の位置:やや旗竿側に寄っています。風になびいた時に中央に見えるようにするためです
水色の海と空、満月、そしてパラオの伝統的な暦という、海洋・天体・伝統文化の3要素を、最もシンプルに表現した1枚です。
「日の丸との関係」 ── デザイナーが否定
パラオ国旗の最大の話題は、日の丸との類似性です。
一見そっくり
日本国旗とパラオ国旗を並べると、次のようになります。
| パラオ | 日本(日の丸) | |
|---|---|---|
| 背景 | 水色 | 白 |
| 円の色 | 黄(金) | 赤 |
| 円の位置 | やや旗竿側 | 中央(1999年の国旗国歌法で正式に「中央」と規定。1870年の商船規則では100分の1旗竿側に寄せる規定があり、陸軍御国旗などでは当時すでに中央配置) |
| 円の意味 | 満月 | 太陽 |
| 採用 | 1981年 | 1870年(船舶旗)/1999年(国旗法) |
色は違うものの、シンプルな「地+丸」というデザインが共通しているため、しばしば日の丸と比較されます。
「日の丸を真似した」説
パラオは、1914年から1945年まで日本の委任統治領でした。第一次大戦後、国際連盟がドイツ領南洋諸島を日本に委任し、日本人が大量に移民してコロールを首都としました。日本語教育や日本式インフラが整えられましたが、1945年の日本敗戦でアメリカの統治に移ります。
この歴史から、「パラオ国旗は、日本統治時代への敬意から、日の丸を意識的に真似した」という説が流布しました。
デザイナー本人が否定
しかし、設計者のジョン・ブラウ・スケボング(John Blau Skebong)はこれを明確に否定しています。
「この旗は、日の丸とは何の特別な関係もない。私が描いたのは、パラオの伝統文化における満月である」
満月には、象徴的な意味があります。パラオの伝統では、満月の時期が漁・農業・カヌー造りに最適とされ、満月は豊穣・繁栄・適切な時期を意味しました。海洋民族として、月の周期と密接に結びついた暮らしを送ってきたのです。
日の丸とは偶然の一致であり、独立した文化的シンボルである、というのがパラオの公式立場です。
「丸い旗の3カ国」
国旗の中央に丸がある国は、世界でわずか3カ国だけです。
- 日本:白地に赤い太陽(日の丸)
- バングラデシュ:緑地に赤い太陽(昇る朝日)
- パラオ:水色地に黄色い満月
3カ国それぞれが、全く違う意味で「丸」を採用しているのは、世界の国旗の中でも興味深い偶然の集まりです。日の丸記事・バングラデシュ記事でも触れた「丸い旗3部作」は、今回が最終回になります。
1,000件の応募 ── パラオ人のデザイン
ここからは、パラオ国旗の誕生を見ていきます。
1979年、国旗コンテスト
1979年、独立準備期のパラオで国旗デザインコンテストが開かれました。応募総数は約1,000件にのぼり、国民から多数の応募が集まって、委員会が審査にあたりました。
ジョン・ブラウ・スケボング
設計者は、ジョン・ブラウ・スケボング(John Blau Skebong)です。彼はパラオ人で、ペリリュー島出身とされます(諸説あり)。彼自身の応募作品が選ばれました。
1980年10月22日、新政府が承認
1980年10月22日、パラオ自治政府が国旗を正式に承認しました。そして1981年1月1日、新国旗が発効します。同じ日に、パラオはアメリカ信託統治から自治政府へと移行しました。
1994年10月1日、完全独立
そして1994年10月1日、パラオはアメリカから完全に独立しました。国旗はそのまま継続して使用され、独立後30年、デザインは変わっていません。
1981年の自治政府発足から1994年の完全独立まで、という長いプロセスを経ても、パラオの国旗は変わらず存続しました。
なぜ「満月」か ── パラオの伝統暦
パラオ国旗の満月は、深い文化的意味を持っています。
パラオの伝統暦
パラオの伝統文化では、月の周期が生活の中心にありました。満月の時期は漁に最適で、月の光があれば夜釣りができます。農作物の植え付けにも適しており、カヌー造りの伝統儀式も満月の下で行われました。一方、新月の時期は、儀式の準備や、村の重要な意思決定にあてられました。
月の周期に従って暮らすのは、南太平洋の多くの民族に共通する伝統です。パラオは、この伝統を国家の最大のシンボルにした稀な例です。
「月の女性的なシンボリズム」
月は、女性的な象徴でもあります。多くの伝統社会で、月は女性、太陽は男性とされてきました。パラオも母系社会の伝統を持ち、土地の相続は女性を通じて行われます。国旗の満月は、女性的・母系的な国家アイデンティティを映したものでもあるのです。
太陽(男性的)の日の丸に対して、満月(女性的)のパラオ、という対比は、文化人類学的にも興味深いものです。
「やや旗竿側」 ── 風になびいた時に中央
パラオの満月は、完全な中央ではなく、やや旗竿側に寄せて配置されています。旗が風になびいた時に、満月が中央に見えるようにするためです。バングラデシュも同じ理由で20分の1旗竿側に寄せており、日の丸も1870年の商船規則では100分の1旗竿側にズレる規定がありました(1999年の国旗国歌法で正式に「中央」に統一)。
3カ国とも「風になびいた時の見え方」を考慮した、職人的なこだわりを持っているのは、丸い旗に共通する特徴です。
パラオという国
パラオの基本情報です。
- 正式名:パラオ共和国(Beluu er a Belau / Republic of Palau)
- 首都:マルキョク(Ngerulmud/2006年にコロールから移転)
- 面積:約460km²(島々の総面積)
- 人口:約1.8万人(世界で人口最少クラス)
- 公用語:パラオ語、英語
- 宗教:キリスト教(カトリック・プロテスタント)、モデクゲイ(パラオ伝統宗教の合流形態)
「約340の島々」
パラオは、約340の島々からなります。メインの島は最大のバベルダオブ島で、旧首都で最大の都市があるのがコロール島です。第二次大戦の激戦地となったのがペリリュー島、ユネスコ世界遺産の珊瑚礁群がロックアイランドです。
「アメリカとの自由連合」
パラオは、アメリカとの自由連合(Compact of Free Association、COFA)の関係にあります。1994年に完全独立したものの、アメリカとは密接な関係を保っており、防衛はアメリカが担当しています。パラオ国民はアメリカで自由に働くことができ、アメリカからの財政支援も受けています。
これはマーシャル諸島・ミクロネシア連邦・ニウエ・クック諸島などと同じ自由連合形態で、太平洋の小国家の典型的な国家形態です。
「世界で最も観光地化された珊瑚礁」
パラオは、世界的に有名なダイビング・スポットです。石灰岩の小島群とターコイズの海が広がるロックアイランド、刺さないクラゲと一緒に泳げるジェリーフィッシュ・レイク、世界のダイバーの聖地であるブルーホール・ブルーコーナーなどがあります。
世界最高の海中景観のひとつとして、観光業がパラオ経済の柱になっています。
ちなみに:日本との特別な関係
パラオと日本には、深い歴史的つながりがあります。
1914-1945年、日本統治時代
日本統治時代には、コロールに日本人街や神社、学校が築かれました。日本人移民が一時期、パラオ人を上回る人口に達したほどです。パラオ語には、多数の日本語が混入しました。デンキ(電気/denki)、ベントー(弁当/bentou)、ダイジョーブ(大丈夫/daijoubu)などです。
1944年、ペリリューの戦い
ペリリューの戦い(1944年9〜11月)は、太平洋戦争の激戦のひとつでした。日本軍とアメリカ軍が戦い、日本軍約1万人がほぼ全滅し、米軍も約2,000人が戦死しました。激戦地として歴史に残っています。
現代の友好関係
現在、日本人観光客がパラオを訪れる人々の多数派を占めます。日系パラオ人も多く、パラオの国会議員や大統領にも日系の人物がいます。トミー・レメンゲサウ元大統領も日系です。日本のODAによるインフラ整備も進められてきました。
国旗は「日の丸とは無関係」ですが、日本との関係は極めて深い、というのがパラオの実情です。
まとめ:満月の国、丸い旗の最終回
今回のパラオ国旗のまとめです。
- 水色地に、やや旗竿側に黄色い満月
- 1981年1月1日、自治政府発足と同時に正式採択
- 1994年10月1日、アメリカから完全独立、国旗は継続使用
- 設計者はジョン・ブラウ・スケボング(パラオ人)
- 1979年の国旗コンテストで約1,000件の応募から選出
- 1980年10月22日、自治政府が正式承認
- 水色は太平洋・空・自立、黄色い丸は満月
- 満月は漁・農業・カヌー造りに最適な時期(パラオ伝統暦)
- 日の丸との類似は「偶然の一致」とデザイナーが明言
- 太陽(日の丸)と満月(パラオ)の対比
- パラオは伝統的に母系社会で、月(女性的)と暮らしを結びつける
- 満月をやや旗竿側に寄せたのは、風になびいた時の見え方の調整
- パラオは約340の島々、人口約1.8万人
- アメリカとの自由連合(COFA)国家
- 1914-1945年は日本の委任統治領、日系パラオ人が多い
- 1944年ペリリューの戦い(日米激戦)
- ロックアイランド・ジェリーフィッシュ・レイクなど世界的ダイビングスポット
- 「日の丸・バングラデシュ・パラオ」の世界3つの「丸い旗」
水色の海に、満月が浮かぶ。パラオの国旗は、日の丸に似ているように見えて、満月という全く違う象徴を持つ1枚です。日の丸・バングラデシュ・パラオの3つの「丸い旗」は、それぞれ独立した文化と歴史を持ち、似ているのは偶然である、というのが、丸い旗3部作の結論です。