青地に左上のユニオン・ジャック、右側に4つの赤い星(白縁)。ニュージーランドの国旗は、一見するとオーストラリア国旗とよく似ています。そして2015-2016年、国民が「国旗を変えるかどうか」を国民投票で決めた、世界の国旗のなかで極めて珍しい歴史を持つ1枚。今回はそんなニュージーランド国旗の話。


まずは構成のおさらい

ニュージーランド国旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:ロイヤルブルー
  • 左上のカントン:ユニオン・ジャック
  • 右側(フライ側):4つの赤い5角星(白い縁取り付き)

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :太平洋、空
  • ユニオン・ジャック:イギリスとの歴史的繋がり、英連邦
  • 4つの赤い星:南十字星(Southern Cross)、南半球を象徴する星座
  • 白縁取り:識別性を高める

英国の遺産と南太平洋という位置を組み合わせた、英連邦の南半球諸国旗の典型的なパターンです。オーストラリア・フィジー・ツバルなどと共通するフォーマットです。


オーストラリアとの違い

ニュージーランド国旗とオーストラリア国旗は、しばしば混同されるほど似ています。

比較表

ニュージーランドオーストラリア
背景
カントンユニオン・ジャックユニオン・ジャック
星の数4つ6つ(コモンウェルス・スター1つ+南十字星5つ)
星の色赤+白縁白のみ
星の角5角星コモンウェルス・スターは7角、南十字星は5角+7角混在

「世界で最も混同される国旗ペア」

1991年、湾岸戦争の時に、ホワイトハウスでニュージーランド首相とオーストラリア首相を取り違える事件が起きました。アメリカ政府関係者が両国の国旗を取り違えて掲揚し、両国民から「失礼だ」と抗議が上がり、国際的に「両国旗の似すぎ問題」が議論されました。

そして2014年、当時のジョン・キー首相が「ニュージーランド国旗を変更すべき」と提案します。これが、後の国民投票につながります。


2015-2016年、国民投票

ニュージーランド国旗で世界的に有名な事件が、2015-2016年の国旗変更国民投票です。

キー首相の提案

ジョン・キー首相(在任2008-2016年)は、国旗変更を強く推進しました。理由は3つありました。第一に、オーストラリア国旗と区別がつかないこと。第二に、ユニオン・ジャックは19世紀の植民地時代の象徴であり、独立国家にふさわしくないこと。第三に、ニュージーランド独自のアイデンティティを示すべきだということです。

2段階の国民投票

国民投票は、拘束力のある2段階方式で行われました。

第1段階は2015年11月20日から12月11日にかけて実施されました。「もしニュージーランド国旗が変わるなら、どの旗が良いか」を問い、5つの候補から選択するものです。その結果、黒・白・青のシダ模様であるシルバーファーンが最多得票となりました。

第2段階は2016年3月3日から24日にかけて実施されました。「現行国旗かシルバーファーンか」を問うもので、結果は現行国旗が56.6%で勝利、シルバーファーンは43.1%でした。

結果と意味

国民は「現行旗を維持」を選択しました。約120万人が現行旗に、約92万人がシルバーファーンに投票し、投票率は約67%と、拘束力ある国民投票としては高い数字でした。費用は約2,600万ニュージーランドドル(約20億円)にのぼりました。

20億円かけて、結局国旗を変えなかった。この結果は、世界の国旗史でも極めて稀な事例です。英国・スウェーデン・カナダなど、国旗変更を真剣に議論したことのある国はあります。しかし、既存の民主主義国家で、政府主導で現行旗と公募の新デザインを一対一で直接対決させる大規模な独立国民投票を行った例としては、ニュージーランドがほぼ唯一です(他国でも独立時や憲法改正時に国旗が国民投票の対象となった例はあります)。

なぜ変えなかったか

理由を考察すると、いくつかの点が挙げられます。現行旗は第二次大戦や朝鮮戦争などで戦死した兵士たちの旗であり、戦没者への敬意があったこと。変更費用は他の社会問題に使うべきだという声があったこと。ユニオン・ジャックも歴史の一部であり、捨てるべきではないという思いがあったこと。そして、新デザインが必ずしも魅力的ではなかったことです。

伝統への愛着が、変革への意欲を上回った。それが結論です。


1869年から続く、青地のブルー・エンサイン

ニュージーランド国旗の歴史を見ていきます。

1840年、ワイタンギ条約

1840年2月6日、ワイタンギ条約がマオリ族の首長たちとイギリス王国の間で締結されました。これによってニュージーランドはイギリス領となり、マオリの権利が一定程度認められました。ただし、この条約は解釈をめぐって大きな対立を生むことになります。

1869年、青のブルー・エンサインに南十字星

1869年、ニュージーランド政府の船舶用旗として、青のブルー・エンサインに4つの赤い星(南十字星)が追加されました。デザイナーはイギリス海軍のアルバート・ハスティングス・マークハム中尉です。海軍旗としての色合いの伝統を受け継いだもので、「ブルー・エンサイン」とはイギリス海軍式の旗を指します。

1902年、国旗法

1902年3月24日、ニュージーランド国旗法(Ensign Act 1902)によって、正式な国旗となりました。海軍旗から国家旗へ昇格したもので、以後120年以上、基本デザインは不変です。

国旗の歴史は1869年から続いています。デンマーク・オランダなどヨーロッパの古い国旗には及ばないものの、太平洋諸国のなかでは長い歴史を持つ旗です。


南十字星 ── 南半球のシンボル

ニュージーランド国旗の4つの星は、南十字星(Crux)です。

南十字星とは

南十字星は、南半球の夜空で目立つ星座です。十字架の形に並んだ4つの明るい星からなり、南極の方向を示すため、南半球の航海者の道標となってきました。オーストラリア・ニュージーランド・サモア・パプアニューギニア・ブラジルなど、南半球の国旗で頻出します。

「赤+白縁」のスタイル

ニュージーランドの南十字星は、赤い星に白い縁取りが付いています。これは背景の青と区別するためで、英国海軍旗の伝統的なスタイルです。一方、オーストラリア国旗の南十字星は白のみで縁がありません。この違いが、両旗を区別する重要なポイントです。

「4つだけ」 ── オーストラリアより少ない

ニュージーランド国旗の星は4つで、オーストラリアは5つです。南十字星は実際にはε Crucisを含む5つの星からなりますが、ニュージーランドは目立つ4つだけを採用し、オーストラリアは5つすべてを採用しています。同じ南十字星でも、各国の解釈が違うというのが興味深い点です。


ニュージーランドという国

ニュージーランドの基本情報です。

  • 正式名:ニュージーランド(New Zealand、マオリ語:アオテアロア Aotearoa)
  • 首都:ウェリントン
  • 最大都市:オークランド
  • 面積:約27万km²(日本の約70%)
  • 人口:約520万人
  • 公用語:英語、マオリ語、ニュージーランド手話
  • 国家元首:英国王(現チャールズ3世)

「アオテアロア」 ── 「長く白い雲の国」

ニュージーランドのマオリ語名は、アオテアロア(Aotearoa)です。「Ao」は雲、「Tea」は白、「Roa」は長いを意味し、つまり「長く白い雲の国」となります。伝説によると、最初にニュージーランドを発見したマオリの航海者クペが、遠くに「長く白い雲」を見て島を発見した、と語り継がれています。

マオリ文化

ニュージーランドのマオリ族は、人口の約17%(約88万人)を占めます。戦士の踊りであるハカは、ラグビーナショナルチームのオールブラックスが試合前に必ず踊ることで知られます。共同体の集会所であるマラエがあり、マオリ語は1987年に公用語化されました。

英連邦の旗の下に、マオリ文化が共存する。それが現代ニュージーランドの特徴です。国旗にマオリ的要素がないことが、国旗変更論争の動機のひとつでもありました。

「指輪物語」と「ホビット」

ニュージーランドは、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』三部作の撮影地です。国土全体が「中つ国(Middle-earth)」として登場し、マタマタのホビット村は世界的な観光名所となりました。観光業に大きな影響を与えています。


ちなみに:マオリの国旗

ニュージーランドには、マオリ族の旗(ティノ・ランガティラタンガ旗)も別途存在します。

ティノ・ランガティラタンガ旗

この旗は黒・白・赤の3色で、白い渦巻き模様が描かれています。マオリ族の主権の象徴であり、2009年にニュージーランド政府が公式に承認しました。政府機関でニュージーランド国旗と並べて掲揚されることもあります。

1つの国に、2つの旗。これはマオリ族とパケハ(白人系)の二文化主義を象徴しています。ウェールズ・スコットランド旗が英国国旗と並ぶのと、似た構造です。


まとめ:南十字星、ユニオン・ジャック、そして変えなかった選択

今回のニュージーランド国旗まとめ。

  • 青地+左上のユニオン・ジャック+右側に4つの赤い5角星(白縁)
  • 1869年、政府船舶用の青のブルー・エンサインに南十字星を追加(マークハム中尉設計)
  • 1902年3月24日、ニュージーランド国旗法で正式国旗に
  • ユニオン・ジャック=英国との繋がり、南十字星=南太平洋の位置
  • オーストラリア国旗との違い:星4つ vs 6つ、赤星+白縁 vs 白星のみ
  • 2015-2016年、ジョン・キー首相提案で国旗変更国民投票
  • 第1段階:シルバーファーン(黒白青のシダ模様)が代替案として選出
  • 第2段階:現行旗が56.6%で勝利、変更見送り
  • 投票費用は約20億円、現行旗と新案を直接対決させる大規模国民投票としては世界でほぼ唯一の事例
  • マオリ語名「アオテアロア」(長く白い雲の国)
  • マオリ族の旗(ティノ・ランガティラタンガ旗)も公式に承認、二文化主義の象徴
  • 「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」三部作の撮影地

変えるか、変えないか、国民が決める。ニュージーランドの国旗は、伝統と革新の間で揺れる現代国家の選択を、世界で唯一、国民投票で示した1枚です。