金色の地に、赤い斜め帯、その上に3羽の銀の鷲(アレリオン)。ロレーヌの旗です。フランス北東部、ドイツと国境を接する地域の旗で、この3羽の鷲「アレリオン」は、実は地名「ロレーヌ」のアナグラムになっています。そして関連するロレーヌ十字は、第二次大戦でド・ゴールが掲げた自由フランスの象徴でもあります。今回はそんなロレーヌの旗の話です。
まずは構成のおさらい
ロレーヌ旗(紋章旗)の構成は、次のとおりです。
- 背景:金(黄)
- 赤い斜め帯:ベンド
- 帯の上に3羽の銀のアレリオン:くちばしと脚のない鷲
関連する象徴は、以下のとおりです。
- ロレーヌ十字:横棒が2本ある十字。ロレーヌ公の紋章で、後に自由フランスの象徴となりました
金地に赤い斜め帯と3羽の鷲、そしてロレーヌ十字という、2つの象徴を持つ地域です。
「3羽の鷲は、地名のアナグラム」
ロレーヌ旗の、最も面白い話を見ていきます。
ゴドフロワの伝説
3羽の鷲には、ロマンある伝説があります。ロレーヌ公は、ゴドフロワ・ド・ブイヨン(第1回十字軍の英雄)の子孫とされていました。1099年のエルサレム包囲で、ゴドフロワが1本の矢で3羽の鳥を射抜いたと伝えられます。これが吉兆とされ、彼がエルサレム王になると予言したことから、3羽の鷲を盾に加えたというのです。
実は言葉遊び
ところが、本当の由来は別にあります。この伝説は13世紀の叙事詩がもとで、史実とは考えにくいものです。実際は「Alerion(アレリオン)」が「Loraine(ロレーヌ)」のアナグラム(つづり替え)だから、という語呂合わせ説が有力です。
アレリオン(鷲)の文字を並べ替えると、ロレーヌになる。言葉遊びから生まれたシンボルです。ガリシア(calice=Galyce)やアゾレス諸島(açor=タカ)にも通じる、はたログでおなじみの「地名と紋章の言葉遊び」です。1183年にはすでにロレーヌ公の印章に使われていました。
「ロレーヌ十字」 ── 自由フランスの象徴
ロレーヌのもう1つの象徴、ロレーヌ十字を見ていきます。
横棒が2本の十字
ロレーヌ十字は、縦棒1本に横棒が2本ある十字です。元はハンガリー王国からアンジュー家を経てロレーヌ公に伝わりました。1477年のナンシー包囲で旗印に使われ、ロレーヌで広まりました。
なお、横棒が2本の十字は、スロバキアの国旗の二重十字とも同じ系統です。
1940年、ド・ゴールが掲げた
そして、20世紀の物語です。1940年7月1日、シャルル・ド・ゴール将軍が、自由フランスの紋章としてロレーヌ十字を採用しました。ナチスの鉤十字(ハーケンクロイツ)に対抗するために、あえて選んだものです。十字軍やキリスト教を思わせ、ドイツに併合されたロレーヌのフランス愛国心を象徴しました。
ナチスの鉤十字に、ロレーヌの十字で立ち向かったという、レジスタンスと解放の象徴です。ロレーヌは普仏戦争後(1871〜1918年)と第二次大戦でドイツに併合された歴史があり、フランス愛国心の象徴にふさわしい地でした。
ロレーヌという地域
ロレーヌの基本情報です。
- 正式名:ロレーヌ(Lorraine)。現在はグラン・テスト地域圏の一部です
- 主要都市:メス(Metz)・ナンシー(Nancy)
- 公用語:フランス語
- 法的地位:フランス(旧地域圏)
「ジャンヌ・ダルクの故郷」
ロレーヌは、ジャンヌ・ダルクの故郷です。ジャンヌ・ダルクは、ロレーヌのドンレミで生まれました。フランス愛国の象徴がこの地の出身というのも、ロレーヌ十字の物語と響き合います。
「ドイツと隣り合う地」
ロレーヌは、アルザスとともに、フランスとドイツの間で何度も帰属が変わった土地です。だからこそ、フランスへの思いが強い地域です。
「キッシュ・ロレーヌ」
ロレーヌは、料理のキッシュ・ロレーヌでも知られ、ミラベル(すももの一種)の産地でもあります。
まとめ:3羽の鷲とロレーヌ十字、ロレーヌ
今回のロレーヌ旗のまとめです。
- 金地に赤い斜め帯、その上に3羽の銀のアレリオン(くちばしと脚のない鷲)
- 伝説では、十字軍の英雄ゴドフロワ・ド・ブイヨンが1本の矢で3羽の鳥を射抜いた吉兆から
- しかし実際は「Alerion」が「Loraine」のアナグラム(言葉遊び)という説が有力
- ガリシアやアゾレス諸島と同じ「地名と紋章の言葉遊び」、1183年には公の印章に
- ロレーヌ十字は横棒が2本の十字、ハンガリーからアンジュー家、ロレーヌ公に伝わり、1477年ナンシー包囲で広まった
- スロバキア国旗の二重十字とも同じ系統
- 1940年7月1日、ド・ゴール将軍が自由フランスの紋章として採用、ナチスの鉤十字に対抗
- 十字軍やキリスト教を思わせ、ドイツに併合されたロレーヌのフランス愛国心を象徴
- ロレーヌは普仏戦争後と第二次大戦でドイツに併合された歴史
- ジャンヌ・ダルクの故郷(ドンレミ)、アルザスとともに帰属が何度も変わった地
- キッシュ・ロレーヌ、ミラベルの産地、主要都市メス・ナンシー、現在はグラン・テスト地域圏の一部
地名のアナグラムの鷲と、自由フランスの十字。ロレーヌの旗は、中世の言葉遊びと、20世紀のレジスタンスの誇りを併せ持つ1枚です。