青・白・緑の3本の横帯、その中央に黒い円錐形の帽子、モコロトロ(Mokorotlo)。レソトの国旗、南アフリカ共和国に完全に囲まれた、世界で稀な内陸国の旗です。世界で唯一、伝統的な帽子を国旗に描いた国でもあります。そして独立40周年記念日(2006年)に、武装闘争のシンボルから平和のシンボルへと変更したという、現代の感動的な物語を持つ1枚です。今回はそんなレソト国旗の話です。
まずは構成のおさらい
レソト国旗の構成(2006年〜)は、次のとおりです。
- 横3本の帯(上から):青・白(広め)・緑
- 白い帯の中央:黒いモコロトロ(バソト人の伝統的な円錐形帽子)
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 青:空、雨。農業に不可欠なもの
- 白:平和、調和
- 緑:繁栄、肥沃な土地
- 黒いモコロトロ:バソト民族の文化遺産、黒人国家としてのアイデンティティ
自然・平和・伝統文化を1枚に込めた、現代アフリカ国旗の典型です。
「モコロトロ」 ── バソトの伝統帽子
レソト国旗の、世界的に独特なシンボルを見ていきます。
モコロトロとは
モコロトロ(Mokorotlo)は、バソト人の伝統的な円錐形の帽子です。草または繊維で編まれ、頂点が尖った特徴的な形をしています。レソト中部の山であるマラベラ・テロアネ(Mount Qiloane)にインスピレーションを得たという伝説があり、男性の正装として特別な式典で着用されます。
「世界で唯一、帽子が描かれた国旗」
レソト国旗は、世界で唯一、伝統的な帽子を主要シンボルとして描いた国旗です。文化的アイデンティティを国旗の中心に据えた1枚だと言えます。マルタやベリーズ(人間が描かれた国旗)と並ぶ、世界の国旗のなかで珍しい「人工物」のシンボルです。
黒い色の意味
そしてモコロトロは黒で描かれています。これはレソトが黒人国家であることを象徴するものです。2006年の変更前は茶色(伝統的な草の色)でしたが、黒に変更されました。黒人民族のアイデンティティを明確にするというのが、2006年版の意図です。
2006年10月4日 ── 平和への転換
レソト国旗が、21世紀に劇的な変更を遂げた経緯を見ていきます。
1987-2006年、武装闘争の旗
旧国旗(1987-2006)は、武装闘争のシンボルでした。白・青・緑の縦三色で、左に槍と盾と棍棒(Knobkerrie)が描かれ、軍事的・武装闘争の姿勢を強調していました。モザンビーク(AK-47)と並ぶ、武器を含むアフリカ国旗のひとつでした。
2006年、独立40周年
そして2006年10月4日、独立40周年記念日に、国旗が完全に変更されました。武器(槍・盾・棍棒)を完全に削除し、代わりに平和の象徴であるモコロトロを採用したのです。
その理由は、南アフリカのアパルトヘイト体制が終焉(1994年)した後、武装闘争のシンボルは時代遅れであり、平和と文化遺産を象徴する国旗が必要だと考えられたためでした。
マラウイが2010年に国旗を変更し2012年に元へ戻したのとは対照的に、レソトは2006年の新国旗を継続しています。
「武器から帽子へ」
これは世界の国旗史のなかでも、最も明確な「武装から平和」への転換でした。モザンビークがAK-47を維持し、ボツワナやナミビアが最初から武器を持たないのに対し、レソトは武器を平和の象徴に置き換えたのです。21世紀のアフリカで、平和を選んだ稀な国旗変更だと言えます。
1966-1987年 ── 独立時代の旗
レソト国旗の歴史を見ていきます。
1966年10月4日、独立
レソトは、1966年10月4日にイギリスから独立しました。旧名はバストランド(Basutoland)で、独立後にレソト王国となり、初代国王はモショエショエ2世(Moshoeshoe II)です。
1966-1987年、最初の国旗
1966年から1987年まで使われた最初のレソト国旗は、赤・水色・緑・白の横四色で、中央にモコロトロが描かれていました。現代版と似ていますが、4色で複雑なデザインでした。
1987年、軍事クーデター
1987年の軍事クーデターにより、国旗が変更されます。武装闘争のシンボル(槍・盾・棍棒)が追加され、その後19年間使用されました。
2006年、平和への回帰
そして2006年、独立40周年に平和の国旗へと変わりました。1966年版の精神に近い、シンプルな3色とモコロトロのデザインです。
レソトという国
レソトの基本情報です。
- 正式名:レソト王国(Kingdom of Lesotho)
- 首都:マセル(Maseru)
- 面積:約3万km²
- 人口:約230万人
- 公用語:セソト語、英語
- 宗教:キリスト教(約90%)
「世界で唯一、完全に包囲された国」
レソトには、地理的な特異性があります。国土の周囲が完全に南アフリカ共和国に囲まれた「完全囲繞国(Enclave)」なのです。こうした国は世界で3カ国だけで、レソトのほか、ともにイタリアに囲まれるサンマリノとバチカンがあります。南アフリカという1国に囲まれた、世界唯一の独立国家がレソトです。
「天空の王国」
レソトには、もう1つの特徴があります。国土全体が標高1,400m以上という、世界で唯一の国なのです。そのため「Kingdom in the Sky(天空の王国)」と呼ばれます。最高地点のタバナ・ントレニャナ(Thabana Ntlenyana、3,482m)は、南アフリカ南部の最高峰です。
国旗の青は高い空を、緑は高地の草原を表すというのが、レソトの自然です。
「バソト民族の国」
レソトの民族構成は、バソト人(Basotho)が約99.7%を占める、ほぼ単一民族の国です。バソト人の言語がセソト語です。エスワティニ(旧スワジランド)と並ぶ、アフリカで稀な単一民族国家です。
「世界で最もエイズ感染率が高い国のひとつ」
レソトは、21世紀に課題も抱えています。HIV/AIDS感染率は約23%にのぼり、これはエスワティニに次ぐ世界2位です。平均寿命は約56歳で、国際的な支援が続いています。
国旗の平和の白の裏には、困難な現実もあるというのが、レソトの一面です。
「水の王国」
そして、レソトの経済の柱が水資源です。レソト・ハイランズ水プロジェクトによって南アフリカに水を供給しており、世界最高地の水資源と呼ばれます。また、世界級の鉱山からダイヤモンドも産出します。
ちなみに:「モショエショエ大王」
レソトの建国の父について見ていきます。
モショエショエ1世
モショエショエ1世(Moshoeshoe I、1786-1870)は、バソト王国の建国者です。19世紀、ズールー戦争やボーア人の脅威からバソト民族を守り、「山の要塞」タバ・ボシウに逃げ込んで国を守り抜きました。アフリカ史で最も賢明な国王のひとりと称されています。
国旗のモコロトロは、モショエショエ1世の伝統的な帽子の象徴でもあるというのが、レソト国民の感情です。
まとめ:武器から、平和の帽子へ
今回のレソト国旗のまとめです。
- 青・白(広め)・緑の横三色に、中央の黒いモコロトロ(バソト人の伝統帽子)
- 2006年10月4日、独立40周年に正式採択
- 1987-2006年の旧国旗は槍・盾・棍棒の武装シンボル
- 2006年、武器を完全に削除し、平和のシンボル(モコロトロ)に置換
- 世界で唯一、伝統的な帽子を主要シンボルとした国旗
- 青=空・雨・農業、白=平和・調和、緑=繁栄・肥沃
- 黒いモコロトロ=バソト民族の文化と黒人国家のアイデンティティ
- モコロトロはマラベラ・テロアネ山に着想を得た円錐形の帽子
- 1966年10月4日、イギリスから独立、レソト王国
- 1966-1987年の最初の国旗は赤・水色・緑・白の4色にモコロトロ
- 世界で3カ国だけの完全囲繞国(レソト・サンマリノ・バチカン)
- 世界で唯一、1国(南アフリカ)に完全に囲まれた独立国家
- 国土全体が標高1,400m以上の「天空の王国」
- ほぼ単一民族(バソト人99.7%)、セソト語
- HIV/AIDS感染率約23%(世界2位)、平均寿命約56歳
- レソト・ハイランズ水プロジェクトで南アフリカに水を供給
- 建国の父はモショエショエ1世(1786-1870)
武器のシンボルを、伝統的な帽子に置き換える。レソトの国旗は、21世紀のアフリカで最も平和的な国旗変更を象徴する1枚です。