赤と白の横二色だけ。世界でいちばんシンプルな国旗のひとつ、それがインドネシア国旗です。でもこのシンプルさが原因で、「モナコ国旗とほぼ同じ」という、ちょっとややこしい状況になっているのを知っていますか。1952年に国際会議の場で本当に話題になった、というレベルの話。今回はそんなインドネシア国旗の話。
まずは構成のおさらい
インドネシア国旗の構成は、とにかくシンプルです。
- 上:赤
- 下:白
の横二色(バイカラー)で、縦横比は2:3。
正式名称は「サン・サカ・メラ・プティ」(Sang Saka Merah Putih)。インドネシア語で「気高き赤と白」という意味です。「メラ」は赤、「プティ」は白を指します。
色の意味は、以下のとおりです。
- 赤:勇気、身体、大地(母なる大地)
- 白:純潔、精神、天(父なる空)
オーストロネシア文化の伝統的な「二元論」、つまり大地(赤)と天(白)、肉体と精神、母と父を表しています。国旗の意味としてかなり古い起源を持つことが、ここからもわかります。
起源は13世紀、マジャパヒト王国
赤と白の旗そのものは、インドネシアでものすごく古くから使われていました。
特に有名なのが、13世紀から16世紀にかけてジャワ島を中心に栄えたマジャパヒト王国です。インドネシア史上もっとも繁栄したと言われるこのヒンドゥー・仏教王国は、赤と白の旗を国家のシンボルとして使っていました。
さらに遡ると、ジャワの古い年代記パラタロンには、13世紀末(1292年)、ケディリのジャヤカトワン軍がシンガサリ王国の首都を急襲した際に、赤と白の旗を掲げたという記述があります。
つまり、現代インドネシア国旗の「赤と白」というモチーフは、700年以上前のジャワに遡れるということ。国旗のデザインそのものが、ものすごく古い民族の記憶を背負っているわけです。
1945年8月17日、独立宣言の場で初めて掲げられた
国旗が「現代インドネシアの公式旗」として最初に公の場に登場したのは、1945年8月17日、インドネシアの独立宣言の日でした。
第二次世界大戦の終戦直後、日本の占領が終わったタイミングで、スカルノとハッタが独立を宣言。この場でラティフ・ヘンドラニングラートらによって赤白旗が掲げられました。
ちなみにこのとき掲揚されたオリジナルの旗は「プサカ(神聖な遺品)」として大切に保管されていて、現在は国立記念塔に安置されています。現役で掲揚に使うことはなく、毎年の独立記念日にはレプリカが使われるというあたりも、インドネシア人にとってこの旗がどれだけ大事かを物語ります。
近代の旗運動としては、1922年にオランダ留学中のインドネシア学生連合が、1928年にはインドネシア国民党が、それぞれ赤白旗を独立運動の旗として使っていました。運動の旗が、そのまま国旗になった典型例です。
モナコ国旗と「ほぼ同じ」事件
ここからが今回のメインの話です。
インドネシア国旗を見て「あれ、これモナコ国旗じゃないの?」と思った人、たぶんいると思います。実際、ヨーロッパの小国モナコの国旗も、赤と白の横二色(赤上・白下)です。
並べてみるとこんな感じです。
| インドネシア | モナコ | |
|---|---|---|
| 上 | 赤 | 赤 |
| 下 | 白 | 白 |
| 縦横比 | 2:3 | 4:5 |
| 赤の色味 | やや明るめ | やや暗め |
| 起源 | 13世紀マジャパヒト王国 | グリマルディ家の紋章 |
ほぼ完全に同じ旗で、違いは比率と微妙な色味だけです。モナコのほうがやや横幅がずんぐりしていて、インドネシアのほうが横長になっています。
1952年、モナコ側が「変えてくれ」と言ってきた話
「ほぼ同じ」だと、外交や国際スポーツなどで間違える可能性もあります。実際に1952年4月29日、モナコで開かれた国際水路会議(International Hydrographic Congress)の場で、モナコ側からインドネシアに国旗デザインの変更を打診したことが記録されています(よく「インドネシアが国連でクレームを入れた」と紹介されますが、これは後年広まった都市伝説で、史実としてはモナコ側からの要請が先でした)。
ただ、この問題には「どちらが先か」という観点で見ると、なかなか複雑な事情があります。
モナコ国旗は、1881年に現在のデザインが公式制定されました。ただし、グリマルディ家(モナコの統治家)の紋章としての赤と白の組み合わせ自体は、12世紀ごろから使用されていると言われています。一方インドネシア国旗は、1945年に公式制定。ただしマジャパヒト王国の赤白旗としては13世紀から使用されてきた、というのがインドネシアの主張です。
「公式制定の年」だけで比べるとモナコのほうが64年早い。一方、「歴史的シンボルとしての使用」を見ると、両方とも12〜13世紀まで遡れて、決着がつきません。
インドネシア側は「マジャパヒト王国以来の旗を、独立してすぐの時期に変えるのは独立戦争で散った人々への侮辱」として要請を拒否。結局両国は、お互いの古いルーツを認め合って、そのまま同じ旗を使い続けることになりました。比率の違い(インドネシア2:3 vs モナコ4:5)で実用上の識別はつく、という決着です。
ちなみにポーランドの国旗は、白上・赤下で、インドネシアと上下逆。並べて間違える人はあまりいませんが、構成要素自体はそっくりだったりします。
まとめ:シンプルな2色に、800年以上の歴史が宿る
今回のインドネシア国旗まとめ。
- 赤・白の横二色(縦横比2:3)、正式名は「サン・サカ・メラ・プティ」(気高き赤と白)
- 赤=勇気・大地(母)、白=純潔・天(父)。オーストロネシアの二元論
- 13世紀のマジャパヒト王国まで遡る伝統的シンボル
- パラタロン年代記には1292年(ジャヤカトワンによるシンガサリ侵攻)の赤白旗の記述あり
- 1945年8月17日の独立宣言で初めて掲揚(オリジナルは「プサカ=神聖な遺品」として保管)
- モナコ国旗と「赤上・白下」が同じ。違いは比率(インドネシア2:3 vs モナコ4:5)と色味だけ
- 1952年の国際水路会議でモナコ側から変更を要請されたが、インドネシアは拒否(「インドネシアが国連で抗議」はよくある都市伝説)
- ポーランド国旗は上下逆(白上・赤下)
シンプルなのに、これだけの歴史と国際的な「あるある」を抱えている。赤と白の2色だけで、ここまで語れる。そんな国旗です。