水色(ターコイズブルー)・白・水色の横三色、中央に5つの水色の星が5点(クィンカンクス)に配置。ホンジュラスの国旗は、中央アメリカ5カ国共通フォーマットの旗のひとつです。5つの星は、かつての中央アメリカ連邦共和国(1823-1841年)の5加盟国を象徴しており、地域統合の夢を200年経った今も国旗に残している1枚です。今回はそんなホンジュラス国旗の話です。
まずは構成のおさらい
ホンジュラス国旗の構成は、次のとおりです。
- 横3本の帯(上から):ターコイズブルー・白・ターコイズブルー
- 中央の白帯:5つの水色の5角星(クィンカンクス、5点配置:4隅+中央)
- 比率:1:2
色とシンボルは、以下のとおりです。
- 青(上):カリブ海、青い空、友愛
- 白(中央):陸地(カリブ海と太平洋に挟まれた地峡)、平和と純粋さ
- 青(下):太平洋、友愛
- 5つの星:かつての中央アメリカ連邦共和国の5加盟国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ)
5カ国の地域統合の夢を、200年前の連邦時代の旗(青白青)に5つの星を加えて表現した、世界で最も明確な「地域統合志向」の国旗です。
5つの星 ── 中央アメリカ連邦の5カ国
ホンジュラス国旗の最大のシンボルが、5つの星です。
クィンカンクス配置
国旗中央の5つの星は、クィンカンクス(quincunx)配置と呼ばれます。4隅に4つの星、中央に1つの星を置く、サイコロの5の目と同じパターンです。古代ローマや中世から続く、伝統的な配置です。
5つの国
各星が表すのは、中央アメリカ連邦の5カ国です。
| 位置 | 国 | 現代の特徴 |
|---|---|---|
| 左上 | グアテマラ | 中米最大、マヤ文明 |
| 右上 | エルサルバドル | 中米最小、コーヒー大国 |
| 中央 | ホンジュラス | ホンジュラス自身 |
| 左下 | ニカラグア | 中米最大の国土、虹を含む国章 |
| 右下 | コスタリカ | 軍隊を持たない国 |
ホンジュラスが中央に位置するのは、地理的にも中央アメリカの真ん中に位置するためで、自然な配置です。
「同じ青白青を継承する5兄弟」
中央アメリカ5カ国は、すべて「青白青」のフォーマットを継承しています。
| 国 | 構成 |
|---|---|
| グアテマラ | 水色・白・水色+国章 |
| エルサルバドル | 水色・白・水色+国章 |
| ホンジュラス | 水色・白・水色+5つの星 |
| ニカラグア | 青・白・青+国章 |
| コスタリカ | 青・白・赤・白・青(赤を追加) |
1823年の中央アメリカ連邦の旗を5カ国が共有している、というのは、世界の国旗のなかで唯一の地域共通フォーマットです。北欧十字、汎アラブ色、汎アフリカ色と並ぶ系統樹のひとつといえます。
「中央アメリカ連邦の夢」 ── 1823-1841年
ホンジュラス国旗の起源は、中央アメリカ連邦共和国(1823-1841年)にあります。
1823年、独立と連邦結成
ニカラグア記事でも触れたとおり、1823年7月1日、中央アメリカがメキシコ帝国から分離し、中央アメリカ連邦共和国を樹立しました。5加盟国からなる連邦国家で、首都はグアテマラシティ、国旗は青・白・青の横三色に国章を加えたものでした。
1838年、ホンジュラス連邦離脱
そして1838年、ホンジュラスが連邦から独立します。これを境に連邦の崩壊が始まりますが、ホンジュラスは連邦時代の旗(青白青)を継続して使用しました。
1841年、連邦完全崩壊
1841年、中央アメリカ連邦は完全に崩壊し、5カ国がそれぞれ独立国家になります。しかし、すべての国が「いつかまた統合する」という願いを込めて、連邦時代の旗を継承しました。
18年間だけ存在した連邦の旗を、5カ国が180年以上継承しているというのは、世界の国旗史でも極めて感動的な事例です。
1866年2月16日 ── 5つの星を追加
ホンジュラス国旗の独自要素が、5つの星です。
1866年、ホセ・マリア・メディーナ大統領
1866年2月16日、ホセ・マリア・メディーナ大統領が、国旗中央に5つの星を追加しました。「ホンジュラスは、いつか中央アメリカ連邦の再統合を望む」という意志のもと、5つの星に5加盟国を象徴させたのです。
他の中央アメリカ4カ国がそれぞれ独自の国章を中央に置くなか、ホンジュラスだけが「5つの星」というシンプルな統合シンボルを採用しました。
統合への意志を最も明確に視覚化した国旗、というのがホンジュラスの特徴です。
「ターコイズブルー」
ホンジュラス国旗の青は、ターコイズブルーです。他の中央アメリカ諸国の青より明るく、1949年にデザインが厳密に標準化された際、青の色合いも規定されました。カリブ海と太平洋の海の青を表しています。
1949年 ── 国旗の標準化
ホンジュラス国旗の細部は、20世紀に厳密に標準化されました。
1949年、デザイン規格化
1949年、ホンジュラス政府が国旗法令を発布します。3本の帯の比率は均等(1:1:1)とされ、青の色合いはターコイズブルーと厳密に規定され、星の大きさや配置も標準化されました。
1866年から80年以上経って、ようやく細部が標準化されたというのは、多くのラテンアメリカ国旗に共通するパターンです。
公式国旗の歌
ホンジュラスには、国旗の歌があります。
`` Tu bandera, tu bandera... (あなたの旗、あなたの旗…) ``
この歌は学校の入学式や卒業式で歌われ、国民の愛国心の中心となっています。
国旗そのものを歌う愛国歌というのは、パキスタンの「星と三日月の旗」やベネズエラの国歌などと並ぶ、ラテンアメリカやアジアで多く見られる愛国文化です。
ホンジュラスという国
ホンジュラスの基本情報です。
- 正式名:ホンジュラス共和国(República de Honduras)
- 首都:テグシガルパ(Tegucigalpa)
- 面積:約11.2万km²
- 人口:約1,000万人
- 公用語:スペイン語
- 宗教:ローマ・カトリック(約47%)、プロテスタント(約41%)
「ホンジュラス」 ── 「深い水」
国名「ホンジュラス」(Honduras)は、スペイン語で「深い水(深さ)」を意味します。
コロンブスの命名
この名は、1502年のコロンブスの第4回航海に由来します。ホンジュラス湾の深い海を航行中、コロンブスが「Gracias a Dios que hemos salido de esas honduras(深いところから出られたことを神に感謝)」と述べたことから、「Honduras(深い場所、深い水)」と命名されたと伝えられます。
コロンブスの一言が国名になったというのは、ベネズエラ(小ヴェネツィア)と並ぶ、ヨーロッパ人探検家による命名の典型です。
「マヤ文明の遺産」
ホンジュラスには、重要な歴史があります。ユネスコ世界遺産のコパン遺跡は、マヤ文明の重要都市(紀元427-822年)でした。マヤ古典期の主要都市のひとつで、精巧な象形文字や彫像で知られています。
国旗中央の星がホンジュラスを表し、その下にコパン文明がある、というシンボリズムです。
「バナナ共和国」
ホンジュラスは、「バナナ共和国」という言葉の語源となった国です。20世紀初頭、ユナイテッド・フルーツ社(現チキータ)が広大なバナナプランテーションを所有し、企業が国家政治に強い影響力を持ちました。「バナナ・リパブリック」という言葉は、ホンジュラスをモデルにしたO.ヘンリーの短編小説(1904年)で広まりました。
国旗の白は平和を表しますが、20世紀のホンジュラスは外国企業に支配された、という複雑な歴史があります。
「サッカー戦争」
ホンジュラスには、世界で最も有名な戦争のひとつである「サッカー戦争」(1969年)の歴史があります。1969年、ホンジュラスとエルサルバドルのサッカーW杯予選で発生した暴動が、本物の戦争に発展したものです。4日間で約2,000人が死亡し、背景には国境紛争や移民問題がありました。「100時間戦争」とも呼ばれます。
国旗中央の星は統合の夢を表しますが、隣国エルサルバドルとは戦争に至った、という中米統合の難しさを象徴しています。
現代の課題
ホンジュラスは、21世紀も多くの課題を抱えています。MS-13やバリオ18といったギャングによる暴力、米国への大量の移民の波、そして気候変動の影響です。1998年のハリケーン・ミッチ、2020年のエタ・イオタなど、ハリケーンによる壊滅的な被害も受けてきました。人間開発指数は世界中位です。
国旗の青は海と空を表しますが、ホンジュラスの現実は厳しい、というのが現代の姿です。
ちなみに:「ピリピリ刺さる」名前
ホンジュラスは、世界でも珍しく「S」で終わる国名です。
「ホンジュラス」と「ホンジュラ」?
スペイン語の「Honduras」は、末尾の「s」が本来の単数形ではなく、複数形のような形をしています。元の意味は「深さ(複数形)」で、海の深さの多様性を表しますが、国名としては単数扱いです。正式名は「ホンジュラス」であり、「ホンジュラ」ではありません。
世界の国名のなかで「S」で終わる稀な国として、アメリカ合衆国(United States)、フィリピン(Philippines)、モルディブ(Maldives)などと並びます。
まとめ:5つの星、中米連邦の夢
今回のホンジュラス国旗のまとめです。
- ターコイズブルー・白・ターコイズブルーの横三色+中央に5つの水色の星(5点配置)
- 1823-1841年の中央アメリカ連邦共和国の旗(青白青)を継承
- 1866年2月16日、ホセ・マリア・メディーナ大統領が5つの星を追加
- 1949年、デザインを厳密に標準化(ターコイズブルーの色合い等)
- 青(上下)=カリブ海と太平洋・空・友愛、白=陸地・平和・純粋
- 5つの星=中央アメリカ連邦5加盟国:グアテマラ・エルサルバドル・ホンジュラス(中央)・ニカラグア・コスタリカ
- 中央アメリカ5カ国は、青白青の共通フォーマットを継承する「兄弟旗」
- 1823年7月1日、中央アメリカがメキシコから独立、5カ国の連邦結成
- 1838年、ホンジュラスが連邦離脱
- 1841年、中央アメリカ連邦完全崩壊
- 国名「ホンジュラス」=コロンブスが1502年に命名「深い水」
- マヤ文明のコパン遺跡(ユネスコ世界遺産、紀元427-822年)
- 「バナナ共和国」の語源国、20世紀ユナイテッド・フルーツ社の影響
- 1969年、エルサルバドルとの「サッカー戦争」(4日で約2,000人死亡)
- 1998年ハリケーン・ミッチで国土が壊滅的被害
18年だけ存在した連邦の夢を、200年経った今も国旗に残すホンジュラスの国旗は、ニカラグア・グアテマラ・エルサルバドル・コスタリカと共有する地域統合の夢を、5つの星に込めた1枚です。