青と白の9本のストライプ、左上に十字。ギリシャの国旗です。きれいな海の色を思わせるシンプルな構成ですが、「なぜ9本なのか?」、これがじつはギリシャ独立戦争のスローガンの音節数につながっているという、知るとちょっと感動する話があります。今回はそんなギリシャ国旗の話です。


まずは構成のおさらい

ギリシャ国旗、別名「ガラノレフキ(Γαλανόλευκη)」、「青と白」の意は、次のような構成です。

  • 9本の横帯:青と白が交互(青5本+白4本)
  • 左上のカントン:青地に白い十字

縦横比は2:3、青色は「ジャラン(地中海の青)」として知られる、深く澄んだ青です。

色の意味は、以下のとおりです。

  • :空と海、ギリシャの自然
  • :純粋さ、海の波しぶき
  • 白い十字:東方正教会(ギリシャ正教)、国民の信仰

そして注目すべきは、「なぜ9本なのか?」です。


9本のストライプは「自由か死か」を意味する

ギリシャ国旗の縞の数、9という数字にはちゃんと意味があります。最も広く語られる解釈は、9本の縞がギリシャ独立戦争のスローガン「自由か死か」の9音節を表す、というものです。

ギリシャ独立戦争(1821-1829)の合言葉になった、有名な言葉があります。

「Ελευθερία ή Θάνατος」(エレフテリア・イ・タナトス) =「自由か死か(Freedom or Death)」

これをギリシャ語の音節で分解してみます。

「Ελευθερία(自由)」は、E(エ)、lef(レフ)、the(テ)、ri(リ)、a(ア)の5音節。

「ή Θάνατος(か死か)」は、i(イ)、tha(タ)、na(ナ)、tos(トス)の4音節。

合計すると、5+4=9音節になります。

そして国旗のストライプは、青5本が「自由(Eleftheria)」の5音節を、白4本が「か死か(i thanatos)」の4音節を表しています。

国旗の縞の数が、独立スローガンの音節数と完全に一致する。シンプルなのに、ものすごく深いシンボル設計です。


もう一つの説:「9つのミューズ」

ただし、9本の意味については諸説あります。もうひとつ広く語られているのが、9本の縞はギリシャ神話の9柱のミューズ(ムーサ)を表す、という説です。

ミューズは、ゼウスとムネモシュネの娘たちで、芸術と学問を司る9人の女神です。

  • カリオペ(叙事詩)
  • クレイオ(歴史)
  • エラト(恋愛詩)
  • エウテルペ(音楽)
  • メルポメネ(悲劇)
  • ポリュムニア(聖歌)
  • テルプシコラ(舞踊)
  • タレイア(喜劇)
  • ウラニア(天文学)

古代ギリシャの文化遺産を、9本の縞で表す、という解釈も、教養層を中心に広く支持されています。

公式の解釈は?

ギリシャ政府の公式解釈は、実はどちらにも明確にコミットしていません。両方の説が並立し、「9本に複数の意味がある」ことを許容しているような状況です。

これも、シンプルなシンボルだけれど、複数のレイヤーで意味を解釈できるという、ギリシャ国旗の魅力です。


1822年、独立戦争のさなかに採用

ギリシャ国旗のデザインが正式に決まったのは、1822年3月15日です。

時代背景は、ギリシャ独立戦争の真っ最中。1821年3月25日にオスマン帝国からの独立を求める蜂起が始まって、まだ1年でした。戦争は10年以上続くことになりますが、その途上で「国旗を確定させる」ことが、暫定政府の重要な仕事でした。

1822年1月13日、ギリシャ独立運動の中心地エピダウロスで開かれた第1回国民会議が、新国家としての枠組みを定め、その2ヶ月後の3月15日に国旗のデザインを正式採択しました。

採択されたのは、2種類の旗です。ひとつは陸用の旗で、青地に白い十字を一面に大きく描いたもの。もうひとつは海軍用の旗で、青と白の9本の縞に、左上のカントンに白い十字を加えたものです。

現在の国旗は、この海軍用のデザインがベースになっています。陸用は1970年代まで併用されていましたが、1978年に海軍用デザインに統一されました。「海洋国家ギリシャ」らしい選択、とも言えます。


「自由か死か」というスローガン

ここで、ギリシャ国旗の核となるスローガン「自由か死か」について、もう少し掘り下げておきます。

スローガンの起源

このスローガンは、1814年、オデッサで秘密結社フィリキ・エテリア(友愛協会)が結成されたときにすでに使われていました。フィリキ・エテリアは、「オスマン支配からの解放」を目的とする秘密組織で、ロシア・コンスタンディヌーポリ・ギリシャ本土に支部を持つ広範な組織でした。

その後、1821年の独立戦争勃発時、この言葉は革命軍の合言葉として広まり、戦線で繰り返し叫ばれました。自由を手にできないなら、死を選ぶ、という非妥協的な姿勢が、4世紀近いオスマン支配からの独立を勝ち取る原動力になった、というわけです。

現代も続く意味

「自由か死か」は、現在のギリシャ共和国の公式モットーでもあります。ギリシャ共和国大統領官邸、国会議事堂、軍隊、学校など、あらゆる場所でこのフレーズが見られます。

ギリシャ人にとって、独立戦争の記憶は今もリアル。その精神が、国旗の縞の数に刻まれている、ということです。


白い十字:東方正教会の信仰

旗の左上の白い十字は、東方正教会(ギリシャ正教)を象徴します。ギリシャ国民の95%以上が東方正教徒で、宗教的アイデンティティが国の核に深く結びついています。

ギリシャ独立戦争自体が、「キリスト教徒(ギリシャ正教徒)の独立を、イスラム教徒(オスマン帝国)から勝ち取る」という宗教的な側面も強く持っていました。十字を旗に描くことで、その独立戦争の宗教的意義を後世に残している、というわけです。

ちなみに同じ理由で北欧諸国(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・アイスランド)の旗にも十字が描かれていますが、これらはルター派・キリスト教の十字。ギリシャの十字とは宗派が違うのが、ちょっとしたポイントです。


縦横比 2:3 と「9本」の調整

ギリシャ国旗の縦横比は2:3。世界の標準的な国旗の比率です。

9本のストライプを2:3の長方形に収めると、1本あたりの高さは縦の9分の1。かなり細い縞になります。遠くから見ても「縞の本数」が認識できるためには、デザイン上の細かいバランスが必要だったわけです。

国旗の正確な仕様(1978年法律第851号)は、次のとおりです。

  • 縦横比は2:3
  • 9本の横帯は均等幅
  • カントン(左上の青地)は縦の5本分のストライプの高さを占める(上から青3本+白2本ぶん)
  • 白い十字の線の太さはストライプ1本ぶん(旗全体の縦幅の9分の1)

精密に設計された幾何学的な旗。ギリシャ人らしい数学的美意識が、こんなところにも表れています。


まとめ:9本の縞に、独立の魂が宿っている

今回のギリシャ国旗のまとめです。

  • 青と白の9本の横帯(青5本+白4本)に、左上の青いカントンに白い十字
  • 1822年3月15日、ギリシャ独立戦争中に暫定政府が採択
  • 9本の意味(主要説):「Ελευθερία ή Θάνατος」(自由か死か)の9音節
  • 5本の青は「自由」5音節
  • 4本の白は「か死か」4音節
  • 9本の意味(別説):ギリシャ神話の9柱のミューズ
  • 白い十字は東方正教会(ギリシャ正教)
  • 青は空と海、白は純粋さと波
  • 1978年に海軍用デザインに統一、現在の形に
  • 「自由か死か」は今もギリシャ共和国の公式モットー

9本の縞は、ただの装飾ではなく、独立スローガンそのものを音節で表現している。ギリシャの旗は、シンプルな縞模様のなかに、4世紀のオスマン支配を脱した独立の魂を込めた、ものすごく濃密な1枚です。