黄色い地に、立ち上がる黒いライオン、爪と舌は赤。フランドルの旗、フランドルのライオン(Vlaamse Leeuw)です。ベルギー北部、オランダ語を話すフランダース地域の旗で、12世紀から続く、低地地方で最も古いライオンの紋章。でも「爪と舌が赤か、黒か」が政治的な論争になっている1枚。今回はそんなフランドルの旗の話です。


まずは構成のおさらい

フランドル旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:黄色(金)
  • 中央:立ち上がる黒いライオン(白で縁取り)。爪と舌は赤
  • 向き:右を向いて爪を立てる(見る側からは左)

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • 黄色地に黒いライオン:フランドル伯の紋章
  • 赤い爪と舌:公式・歴史的なフランドルのライオン

黄色地に、爪と舌が赤い黒ライオンを配した、低地地方を代表する1枚です。


「最古のライオンの紋章」

フランドル旗の歴史を見ていきます。

1163年の印章

フランドルのライオンは、フランドル伯の紋章です。最初の登場は、1163年のアルザス伯フィリップの印章でした。低地地方(ベネルクス)の数あるライオンの紋章のなかで、最も古いものです。

もとはライオンではなかった

そして、意外な前史があります。ライオンの前、フランドル伯の最初の紋章は、青と黄に赤い盾でした。12世紀以降、ライオンがフランドルの象徴になっていきます。

800年以上前から続く、低地地方最古のライオンという由緒です。ヴェネトの聖マルコのライオンと並ぶ、ヨーロッパの「ライオン旗」の代表格です。


「爪と舌は赤か、黒か」 ── 色をめぐる論争

フランドル旗の、最もユニークな話を見ていきます。

公式は赤い爪と舌

公式・歴史的には、フランドルのライオンは赤い舌と爪を持ちます。

全身黒のライオン

しかし、もう1つのバージョンがあります。第一次・第二次大戦後、反ベルギー色を強めたフランドル運動の一部が、全身黒(爪も舌も黒)のライオンを使うようになりました。赤い爪と舌が、ベルギー国旗の色(黒・黄・赤)を連想させることを嫌ったのです。戦中の協力の問題などの歴史的な経緯もあり、全身黒のライオンは、分離主義・急進的なフランドル民族主義の象徴と見なされることがあります。

同じライオンでも、爪と舌の色で政治的な意味が変わるという、デリケートな旗です。評価は政治的立場で分かれます(諸説あり)。本記事の主役は、公式の「赤い爪と舌」のライオンです。


「黄金の拍車の戦い」 ── 小説が蘇らせた象徴

フランドルのライオンが、現代の象徴になった理由を見ていきます。

1838年の歴史小説

人気の歴史小説『フランドルの獅子(De leeuw van Vlaanderen)』(1838年、ヘンドリック・コンシエンス)が、この象徴を蘇らせました。1302年7月11日の金拍車の戦いを、外国の抑圧に対するフランドルの抵抗の象徴として描いたのです。

7月11日の旗

そして、今に残る伝統があります。1847年、ヒッポリート・ファン・ペーネが州歌『De Vlaamse Leeuw(フランドルの獅子)』を書きました。19世紀末には、7月11日にフランドルのライオン旗を掲げる習慣ができ、7月11日は今もフランドル共同体の祝日です。1冊の小説が、中世の戦いと旗を、近代のアイデンティティに変えた、文学と旗の物語です。


フランドルという地域

フランドルの基本情報です。

  • 正式名:フランデレン/フランドル地域(Vlaanderen)
  • 主要都市:アントワープ(Antwerpen)、行政の中心はブリュッセル
  • 面積:約1.4万km²
  • 人口:約670万人
  • 公用語:オランダ語(フラマン語)
  • 法的地位:ベルギーの地域・共同体

「オランダ語のベルギー」

フランドルは、ベルギー北部です。ベルギーは、オランダ語のフランドル(北部)と、フランス語のワロン(南部)に分かれます。フランドルはオランダ語圏です。

「中世の毛織物の富」

フランドルには、歴史的な繁栄があります。中世、毛織物と交易で栄え、ブルッヘ(ブルージュ)、ヘント(ガン)、イーペルなどの豊かな都市が生まれました。フランドル絵画の中心でもありました。


まとめ:黄色地に黒いライオン、フランドル

今回のフランドル旗のまとめです。

  • 黄色(金)地+立ち上がる黒いライオン(白で縁取り)+赤い爪と舌
  • 黄色地に黒いライオン=フランドル伯の紋章
  • 最初の登場は1163年のアルザス伯フィリップの印章、低地地方で最古のライオンの紋章
  • ライオンの前は青と黄に赤い盾、12世紀以降ライオンが象徴に
  • 公式・歴史的には赤い爪と舌だが、全身黒のライオンも存在
  • 全身黒は反ベルギー的・分離主義のフランドル民族主義の象徴と見なされることがある(諸説あり)
  • 赤い爪と舌がベルギー国旗の色を連想させることを嫌った経緯
  • 1838年の歴史小説『フランドルの獅子』(コンシエンス)が、1302年の金拍車の戦いを抵抗の象徴に
  • 1847年に州歌「De Vlaamse Leeuw」、19世紀末には7月11日に旗を掲げる習慣(今もフランドル共同体の祝日)
  • ベルギーはオランダ語のフランドル(北)とフランス語のワロン(南)に分かれる
  • 中世は毛織物と交易で繁栄(ブルッヘ・ヘント・イーペル)、フランドル絵画の中心
  • 面積約1.4万km²、人口約670万人、主要都市アントワープ

黄色地に、爪と舌が赤い黒ライオン。フランドルの旗は、低地地方最古のライオンと、現代のアイデンティティをめぐる物語を背負った1枚です。