白地に、青で縁取られた赤い北欧十字。フェロー諸島の旗、メルキ(Merkið、「旗」)です。北大西洋のデンマーク自治領の旗で、1919年、コペンハーゲンに留学していたフェロー人学生たちがデザインしました。そして第二次大戦中、イギリスが承認したことで公式化された1枚です。今回はそんなフェロー諸島旗の話です。
まずは構成のおさらい
フェロー諸島旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:白
- 赤い北欧十字:青で縁取られ、縦棒が旗竿側に寄っている(ダンネブロースタイル)
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 白:海の泡や明るい空、フェローの清らかさ
- 赤い十字:フェローの伝統衣装の赤、そして北欧諸国の十字
- 青い縁取り:フェローの伝統衣装の青、そして北欧諸国の色
デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・オーランド諸島と並ぶ、北欧十字旗ファミリーの一員です。
コペンハーゲンの学生がデザイン
フェロー諸島旗の起源を見ていきます。
1919年、留学生たちの旗
この旗は、1919年、コペンハーゲンに留学していたフェロー人学生たちがデザインしました。リーダーはイェンス・オリヴァー・リスバーグ(Jens Oliver Lisberg)で、ヤヌス・エスルソンやパウル・ダールも協力しています。
「自分たちの旗が欲しい」
学生たちの動機は、はっきりしていました。祝祭や悲しみの時に、フェロー独自の旗がないのは不適切だ。デンマーク旗ではなく、フェロー独自の旗を持ちたい。そうした思いが、旗づくりの出発点でした。
1919年6月22日、初掲揚
そして1919年6月22日、フェロー諸島のファミン(Fámjin)で、この旗が初めて掲揚されました。学生たちが作った旗が、ついに故郷で翻った瞬間です。
ラトビアの旗を画家が、アイスランドの旗を学生がデザインしたように、フェロー諸島の旗もまた、若者や市民の手から生まれた北欧の旗のひとつです。
1940年4月25日 ── イギリスが承認
フェロー諸島旗が公式化されるまでの経緯を見ていきます。
第二次大戦の占領
1940年、第二次大戦のさなか、ナチス・ドイツがデンマークを占領しました。しかしフェロー諸島は、イギリスがデンマークから切り離す形で占領します。
1940年4月25日、イギリスが旗を承認
そして1940年4月25日、イギリス当局がフェロー船舶にメルキの使用を認めました。デンマーク旗が使えなくなったため、フェロー独自の旗が承認されたのです。戦争が、結果としてフェロー旗を公式化させたことになります。この日は現在、Flaggdagur(旗の日)として記念されています。
1948年、自治法で正式承認
そして1948年、フェロー諸島の自治法で、特別なフェロー旗として正式に承認されました。以後、現代まで使われ続けています。
フェロー諸島という領土
フェロー諸島の基本情報です。
- 正式名:フェロー諸島(Faroe Islands、フェロー語:Føroyar)
- 首都:トースハウン(Tórshavn)
- 面積:約1,400km²
- 人口:約5.4万人
- 公用語:フェロー語・デンマーク語
- 法的地位:デンマーク王国の自治領
「18の島々」
フェロー諸島は、北大西洋、アイスランドとノルウェーの間に浮かぶ18の島々からなります。その名は「羊の島々」を意味し、これが国名の由来にもなっています。
「Føroyar」 ── 羊の島
国名「フェロー」(Føroyar)は、古ノルド語で「羊の島」を意味します。「Før」が羊、「oyar」が島々を表し、合わせて「羊の島々」となります。実際、フェロー諸島には人口より羊のほうが多いほどです。国旗の白は羊の毛か、という冗談はさておき、フェロー諸島は羊と漁業の島です。
「グリンダドラップ」
フェロー諸島には、世界的に議論される伝統があります。グリンダドラップ(Grindadráp)と呼ばれる、伝統的なゴンドウクジラ漁です。数百年の歴史を持つ漁ですが、国際的な動物保護団体からは批判もあり、伝統と現代の価値観が対立する問題となっています(諸説あり)。
「デンマークとの自治」
フェロー諸島は、デンマーク王国の自治領です。デンマークはEUに加盟していますが、フェローはそこから除外されており、EUには加盟していません。独自の漁業政策を持ち、グリーンランドと並ぶ、デンマーク王国の自治領として知られています。
まとめ:学生が作った北欧十字、戦争が公式化
今回のフェロー諸島旗のまとめです。
- 白地に、青で縁取られた赤い北欧十字(縦棒は旗竿側)
- 旗の名は「メルキ(Merkið、旗)」
- 1919年、コペンハーゲン留学中のフェロー人学生(イェンス・オリヴァー・リスバーグら)がデザイン
- 1919年6月22日、ファミンで初掲揚
- 白は海の泡・空、赤は伝統衣装・北欧十字、青は伝統衣装・北欧の色
- 北欧十字旗ファミリー(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・オーランドと並ぶ)
- 1940年、第二次大戦でイギリスがフェロー諸島を占領
- 1940年4月25日、イギリスがフェロー船舶にメルキの使用を認める(Flaggdagur=旗の日)
- 1948年、自治法で正式承認
- 18の島々、北大西洋(アイスランドとノルウェーの間)
- 国名「Føroyar」は古ノルド語「羊の島々」(人口より羊が多い)
- グリンダドラップ(伝統的ゴンドウクジラ漁)が国際的議論に
- デンマーク王国の自治領、EUには非加盟
- 面積約1,400km²、人口約5.4万人、首都トースハウン
コペンハーゲンの学生が作り、戦争が公式化した北欧十字。フェロー諸島の旗は、若者の郷土愛から生まれた、北欧十字旗ファミリーの1枚です。