赤・緑・青の三角形の組み合わせ、中央にオリーブの輪。エリトリアの国旗は、構成だけ見ると幾何学的でモダンですが、そこに描かれているオリーブの葉の枚数までもが、国の歴史と完全にリンクしています。細部までメッセージを込めた1枚です。今回はそんなエリトリア国旗の話。
まずは構成のおさらい
エリトリア国旗の構成は、ちょっと独特です。旗竿側を底辺として右に向かって尖った赤い三角形が、旗全体の中央を貫いています。その上半分が緑の三角形、下半分が青の三角形になっており、中央の赤い三角の真ん中には、金色のオリーブ枝がオリーブの輪に囲まれて描かれています。
3つの三角形が重なって、1枚の旗のなかに「方向」が生まれる、独特のダイナミックなレイアウトです。
色とシンボルの意味は、次のとおりです。
- 緑:エリトリアの農業と家畜
- 青:紅海の恵み
- 赤:独立戦争で流された血
- オリーブの輪と枝:平和への願い
「30年の独立戦争」を抜きには語れない国
エリトリアという国を理解するには、「30年戦争」を知らないと始まりません。
エリトリアは現在のエチオピアの北側、紅海に面した細長い国土を持つ国です。19世紀末からイタリア植民地、第二次大戦後にイギリス信託統治を経て、1952年に国連の決議でエチオピアと連邦を組むことになりました。
しかし1962年、エチオピアのハイレ・セラシエ皇帝が一方的にエリトリアを併合します。エリトリア人は「自分たちの国は奪われた」と感じ、ここから独立を目指す武装闘争が始まりました。
その歩みをたどると、1961年9月1日にエリトリア解放戦線(ELF)が武装闘争を開始し、1970年代には内紛からエリトリア人民解放戦線(EPLF)が分派して主導権を握ります。そして1991年5月24日、EPLFがエチオピア軍を破って首都アスマラを解放し、1993年5月24日には国民投票を経て正式に独立しました。
つまりこの国は、1961年から1991年まで、ちょうど30年間、独立をかけて戦い続けた国です。世界でもっとも長い独立戦争のひとつとして歴史に刻まれています。
「30枚のオリーブの葉」が30年を表す
ここがエリトリア国旗の最大の見どころです。
旗の中央にあるオリーブの輪、ぐるりと囲んでいる葉の数を数えると、ちょうど30枚になっています。
これは偶然ではなく、1961年から1991年までの30年の独立戦争を、文字どおり1枚ずつ葉で表したものです。30年の歴史を、30枚のオリーブの葉に込めたわけです。
1995年12月5日に正式採用したタイミングで、葉の数を厳密に30枚に標準化したのも、この象徴性を確実にするため。国旗の細部にここまで意味が込められている例は、世界でもなかなか珍しいんです。
EPLFの旗 + 1952年の旗 = 現在の国旗
エリトリア国旗のデザインは、2つの旗の要素を組み合わせて作られています。
1. EPLFの党旗(1977年〜)
独立闘争を主導したEPLFは、1977年1月に党旗を採用しました。それは、赤・緑・青の3つの三角形に、赤い三角の中央に黄色い五芒星を配したものでした。
つまり現在のエリトリア国旗の「形」は、ほぼEPLFの党旗そのままです。独立を勝ち取った戦士たちの旗が、そのまま国の旗になったわけです。
2. 1952年のエリトリア旗(連邦時代)
エリトリアが国連決議でエチオピアと連邦を組んだ1952-1962年の時期にも、独自の旗を持っていました。水色地に金色のオリーブ枝とオリーブの輪を配した、平和と独立の象徴です。
新しい国旗を作るとき、EPLFの党旗の中央の「五芒星」を、この1952年の旗の「オリーブ枝+輪」に置き換える、という統合がなされました。
結果として、形と色はEPLF党旗(戦争で勝ち取った独立)から、中央のシンボルは1952年の旗(平和への願い)から受け継ぎ、戦いと平和という2つの記憶を1枚に重ねた旗が完成したわけです。
国章には、ラクダがいる
国旗そのものには描かれていませんが、エリトリアの国章を見ると、中央にアラビアラクダが描かれているのに気づきます。
なぜラクダなのか。それは、30年の独立戦争でラクダが絶大な役割を果たしたからです。
エリトリアの地形は、険しい山岳地帯と乾燥地帯が混在しています。トラックや車両では入っていけない場所も多く、戦士たちはラクダの背に武器・食料・水を載せて、山を越え、砂漠を越え、敵の包囲をかいくぐりました。
「ラクダがいなければ、独立はなかった」とまで言われたほど、ラクダは戦争中の物資輸送の要だったわけです。その功績を讃えて、独立後の国章にラクダが描かれることになりました。
戦争に貢献した動物が、国の象徴になる。世界の国の紋章のなかでも、なかなか粋な選択です。
まとめ:旗の細部まで、独立の歴史が刻まれている
今回のエリトリア国旗のまとめです。
- 赤い三角形と緑(上)・青(下)の三角形、中央に金色のオリーブ枝とオリーブの輪
- 緑は農業・家畜、青は紅海、赤は独立戦争の血を表す
- 1961年9月から1991年5月の30年戦争でエチオピアから独立
- 1993年5月24日、国民投票を経て正式独立、同日に新旗を初掲揚
- 1995年12月5日、正式に国旗として採用
- オリーブの輪の葉は30枚で、30年の独立戦争を象徴する
- デザインはEPLF党旗(1977)の形と、1952年連邦時代の旗のオリーブを融合したもの
- 国章には独立戦争で物資輸送を支えたラクダが描かれている
葉の枚数まで戦争の年数と一致しているエリトリアの旗は、ディテールの1つ1つに歴史が宿る、世界の旗のなかでもとくに読み解きがいのある1枚です。