青・白・青の横三色、中央に紋章。エルサルバドルの国旗は、お隣のホンジュラス・ニカラグアと並べてみると、ほぼ同じ色構成であることに気づきます。それもそのはず、この3国(プラスコスタリカ・グアテマラ)は、かつてひとつの国だったんです。今回はそんなエルサルバドル国旗の話。
まずは構成のおさらい
エルサルバドルの国旗には3つのバリエーションがあります。中央に国章を配した政府・軍・大使館用の正式バージョンが「バンデラ・マグナ(Bandera Magna、大いなる旗)」と呼ばれ、民間や日常掲揚には、中央に金字でモットー「DIOS UNION LIBERTAD」だけが入った「Bandera de Uso Oficial(公式用途旗)」が使われます。今回はもっとも華やかなバンデラ・マグナを軸に見ていきます。
構成は、上から次のとおりです。
- コバルトブルー
- 白(中央に国章)
- コバルトブルー
横三色(トライバンド)で、色は2色だけのシンプルなデザインです。
色の意味は、次のとおりです。
- 上の青:太平洋
- 下の青:カリブ海(大西洋側)
- 白:平和
ここがちょっと興味深いポイントです。エルサルバドルは太平洋にしか海岸がないんです。カリブ海側に領土を持っていないのに、なぜ大西洋の青が描かれているのか。その答えが、この記事のメインの話です。
ルーツは「中米連邦共和国」
エルサルバドル国旗を理解するには、1823年から1841年まで存在した中米の連邦国家、中米連邦共和国(Federal Republic of Central America)を知る必要があります。
1821年、スペインから独立した中米地域は、しばらくメキシコ第一帝国の一部になりますが、1823年に分離して5つの州からなる連邦を結成しました。その5州が、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカです。
「アメリカ合衆国のような連邦を、中米でも作ろう」というのが当時の理念でした。
そして連邦国旗が、青・白・青の横三色に中央の紋章を組み合わせたもの。現在のエルサルバドル国旗の直接の祖先が、この時点で出来上がっていたわけです。
連邦は内部対立で1841年に分裂・解体し、各州はそれぞれ独立国家となりますが、エルサルバドル・ホンジュラス・ニカラグアは「青・白・青」の伝統を、独立後も自国の旗に引き継ぎました。
太平洋と大西洋の青、これは「中米連邦は両方の海に面していた、ひとつの国だった」という記憶の残像です。エルサルバドル単独では大西洋に面していなくても、かつての連邦=ひとつの中米を表す色として、2本の青が残っているわけです。
さらに遡ると、ルーツは「アルゼンチン国旗」
中米連邦の旗は、まったくのオリジナルではなく、もうひとつ参考にしたモデルがあります。
それが、アルゼンチン国旗(青白青の横三色)です。
1810年代、南米のアルゼンチン独立運動が中米の独立運動家たちに大きな影響を与え、「アルゼンチンと同じ青・白の三色を、我々も使おう」となった、と言われています。中米連邦の旗は、南米と中米の独立運動の連帯を、色で表していたわけです。
つまりエルサルバドルの旗の3色は、アルゼンチン国旗(1812年)から中米連邦共和国国旗(1823年)、そしてエルサルバドル国旗(独立後)へという、200年以上の系譜を持っている、ということになります。
国章の中の「5つの火山」が、5つの国を表す
エルサルバドル国旗の中央にある国章、これがまた中米連邦の記憶をぎゅっと圧縮したデザインです。主要な要素を見ていきます。
5つの火山
シールド中央に、コバルトブルーの三角形のなかに5つの火山が並んでいます。これはエルサルバドル国内のコルディジェラ・デ・アパネカ山脈をモデルにしていますが、5つという数字が重要です。
5つの火山は、中米連邦の5つの加盟国(コスタリカ・グアテマラ・ホンジュラス・ニカラグア・エルサルバドル)を表します。
「5つの国が、ひとつの大地の上に立っている」というメッセージが、火山という具体的なシンボルで表現されています。
自由の帽子(フリギア帽)
火山の上には、赤いフリギア帽が描かれています。フランス革命以来「自由」を象徴する三角錐の帽子です。
1821年9月15日
シールドの下には「15 DE SEPTIEMBRE DE 1821」の文字。スペインからの独立記念日です。
モットー「Dios, Unión, Libertad」
シールドを囲む金の帯には、ラテン語ではなくスペイン語で「Dios, Unión, Libertad(神、団結、自由)」の3語が刻まれています。「中米の団結」を意味する「Unión」が含まれているのが、また連邦時代の名残を感じさせるポイントです。
1912年、「中米連邦の旗」が復活
エルサルバドルの国旗の歴史は、ずっと青白青だったわけではないんです。
1865年から1912年までの約47年間、エルサルバドルはアメリカ国旗風のストライプ・デザインを使っていました。赤と白のストライプに青いカントン、そこに白い星という、文字通り「中米のアメリカ」を目指していた時期です。
しかし1912年5月17日、立法議会が「やはり中米連邦の伝統に戻ろう」と決定します。青・白・青の三色を国旗として復活させ、同年9月15日(独立記念日)にサンサルバドルのカンポ・デ・マルテで正式に掲揚されました。
アメリカ風からの卒業、中米としてのアイデンティティへ。この1912年の選択が、いまの国旗の直接の起源です。
ちなみに1921年9月15日から1922年1月29日までは、中米連邦の再結成(Federation of Central America、短期間)に参加していたため、エルサルバドル独自の国旗は一時的に廃止されました。再分裂後にまた復活、という細かい歴史もあります。
ホンジュラス・ニカラグアと「兄弟関係」
エルサルバドル国旗を語るとき、お隣の国旗との比較は避けて通れません。
| 上 | 中 | 下 | 中央 | |
|---|---|---|---|---|
| エルサルバドル | 青 | 白 | 青 | 国章(5つの火山) |
| ホンジュラス | 青 | 白 | 青 | 青い星5つ |
| ニカラグア | 青 | 白 | 青 | 国章(5つの火山) |
| グアテマラ | 青 | 白 | 青 | 国章(縦縞配置) |
| コスタリカ | 青 | 白+赤+白 | 青 | 国章 |
5カ国そろって「青白青ベース」。全部、中米連邦のDNAを残しているわけです。エルサルバドル・ニカラグアの紋章には、どちらも5つの火山が描かれている、というのもまさに同じルーツの証です。
5カ国を並べた風景は、「中米連邦という、200年前の夢」を、いまも形として残してくれている景色なんです。
まとめ:解体された連邦が、いまも国旗のなかに生きている
今回のエルサルバドル国旗のまとめです。
- 青・白・青の横三色に中央の国章、正式名は「バンデラ・マグナ(大いなる旗)」
- 上の青は太平洋、下の青はカリブ海(中米全体を象徴)、白は平和
- 起源は1823-1841年の中米連邦共和国の国旗、さらに遡るとアルゼンチン国旗
- 中央の国章には5つの火山(中米連邦の5加盟国を表す)、自由の帽子、独立記念日、モットー「神・団結・自由」
- 1865-1912年はアメリカ風ストライプ旗だったが、1912年に中米連邦の旗を復活
- 1912年9月15日、独立記念日に現行版を初掲揚
- 1921-1922年の中米連邦再結成時には一時廃止、その後復活
- ホンジュラス・ニカラグア・グアテマラ・コスタリカと「青白青ベース」を共有する兄弟関係
200年前に解体された連邦の夢が、いまも5つの国の旗のなかに生きている。エルサルバドルの旗は、中米という地域の物語そのものを背負っています。