緑地の上に、黄・黒・白の3色十字。その中央に赤い円。そして赤い円のなかには、紫色の胸を持つオウム、ミカドボウシインコ(シセル)。国旗の主要なシンボルにはっきりと紫色を打ち出している、世界でも数少ない国旗、それがドミニカ国の旗です。カリブ海の小さな島国が、絶滅危惧種の鳥を国旗の中心に据えたという、世界の国旗のなかでもっとも野生動物に近い1枚。今回はそんなドミニカ国旗の話。


まずは構成のおさらい

ドミニカ国旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:緑
  • 中央:黄・黒・白の3色の十字(横3本+縦3本)
  • 十字の中心:赤い円
  • 赤い円の中央:ミカドボウシインコ(シセル、Sisserou Parrot)、止まり木に止まる
  • 赤い円の周り:緑の5角星10個(円を囲むように配置)

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :島の豊かな植生、熱帯雨林
  • :太陽の光、農産物(シトラス・バナナ)、先住民カリナゴ・アラワク族
  • :肥沃な黒土、アフリカ系住民の遺産
  • :ドミニカ国の川と滝の純粋さ、国民の希望
  • :社会正義への決意
  • 十字:キリスト教の三位一体
  • オウム:ミカドボウシインコ。国鳥、絶滅危惧種、「より高みへの飛翔」
  • 10の星:ドミニカ国の10の小教区、国民の平等

緑の島に、キリスト教の十字、社会正義の赤、希望のオウム、10の地域の星。カリブ海の小国家の理念を1枚に圧縮したデザインです。


「紫」を含む数少ない国旗

ドミニカ国旗の世界的な特徴は、国旗の主要シンボルにはっきりと紫色を打ち出している点です。

紫はどこに?

紫色は、オウムの胸の部分にあります。ミカドボウシインコ(Amazona imperialis)の特徴は、その紫色の胸羽です。正式名「Sisserou」はカリブの先住民言語に由来し、緑の体に紫の胸、赤い目という独特な色合いの鳥です。

なぜ「紫」は珍しいか

紫色が国旗に使われてこなかったのには、歴史的な理由があります。古代、紫色の染料(ティリアン・パープル)は極めて高価で、アクキガイ科の貝1万個から1グラムしか取れませんでした。古代ローマでは皇帝のみが使用可能で、「王の色」として希少だったのです。大量生産が不可能だったため、布製の旗には使えませんでした。

紫は王権の色であり、庶民の旗には使えないという歴史的経緯で、世界の国旗から紫が排除されてきたわけです。

ドミニカは「合成染料」時代に独立

しかし19世紀後半、化学合成染料(アニリン染料)が発明されます。これによって、どんな色でも安価に大量生産できるようになり、紫色も普通の色になりました。ドミニカ国の独立(1978年)は、この合成染料時代の後のことです。

ドミニカが独立したのは紫を旗に使える時代だったから、という、技術史と国旗デザインが交差した結果です。

なお、正確には「国旗に紫色を含む数少ない国」という表現がふさわしいといえます。ニカラグアの国章の虹やエルサルバドルの国章中央の飾りにも紫が含まれており、ドミニカは「世界で唯一」ではなく「世界に数か国しかない紫色を含む国旗のひとつ」として知られています。それでも、国旗の主要なシンボル(オウムの胸)として、はっきり紫を打ち出しているのはドミニカ国だけ、と言える特徴です。


ミカドボウシインコ ── 50〜250羽未満の国鳥

ドミニカ国旗の中央にいるオウムは、ミカドボウシインコ(Sisserou、Amazona imperialis)です。

2017年ハリケーン後は野生50〜250羽未満

ミカドボウシインコは、ドミニカ国の固有種、つまりこの島にしかいない鳥です。野生個体数は2017年のハリケーン・マリア以降に激減し、現在は約50〜250羽未満と推定されています。IUCNレッドリストでは「絶滅寸前/深刻な危機(CR、Critically Endangered)」とされ、2019年以降に「絶滅危惧種(EN)」から「絶滅寸前(CR)」に引き上げられました。生息地はドミニカ最高峰(1,447m)であるモルヌ・ディアブロタン国立公園の山岳熱帯雨林です。体長は約45〜50cmとカリブ最大のインコで、緑の体に紫色の胸、赤い目という特徴を持ちます。

なぜ絶滅危惧か

数が少ないのには、いくつもの理由があります。元々の生息地がドミニカ島の高地のみと限定的であったうえ、18〜19世紀にはヨーロッパ人による狩猟がありました。さらに1979年のハリケーン・デイヴィッドで生息地が壊滅的な被害を受け、2017年のハリケーン・マリアで再び個体数が激減しています。

気候変動とハリケーンが固有種の生存を脅かすという、21世紀のカリブ諸島の典型的な問題を、ドミニカ国旗の鳥は体現しています。

「国の象徴」

ミカドボウシインコは、ドミニカの国章にも描かれた、国家のシンボルです。国旗の中央、国章の中央に描かれ、パスポートや政府印章にも使われています。「Sisserou」はドミニカ人の誇りです。

絶滅危惧の鳥が国家の中心シンボルになっているというのは、世界の国旗で唯一の例で、ドミニカ人の自然保護への強い意識を示しています。


10の星 ── 10の小教区

国旗のオウムを取り囲む10の緑の5角星は、ドミニカ国の10の小教区(parish、教会教区が行政区分になっている)を表します。

小教区名位置
セント・アンドリュー(St Andrew)北東
セント・デイヴィッド(St David)
セント・ジョージ(St George)南西(首都ロゾー)
セント・ジョン(St John)北西
セント・ジョセフ(St Joseph)西
セント・ルーク(St Luke)南西
セント・マーク(St Mark)南西
セント・パトリック(St Patrick)
セント・ポール(St Paul)西
セント・ピーター(St Peter)北西

全てキリスト教の聖人の名前という構成は、ドミニカ国がカトリック教国だった歴史(フランス領時代の名残)を反映しています。

10の星がドミニカの平等な10地域を表すという、シンプルかつ明快なシンボリズムです。


デザイナーは劇作家、アルウィン・バリー

ドミニカ国旗を設計したのは、アルウィン・バリー(Alwin Bully、1948-2023)です。

カリブ海の代表的な文化人

アルウィン・バリーは、ドミニカ出身の劇作家・演出家・芸術家でした。西インド諸島大学で英文学・演劇を学び、カリブ海の代表的な劇作家のひとりとなります。ユネスコやジャマイカ、カリブ文化機構などで活動し、2023年に75歳で逝去しました。

1978年、独立準備期にデザイン

1978年、ドミニカ国の独立を控えて、バリーが新国旗をデザインします。これは政府からの公式委託で、「島の自然+キリスト教+平等+希望」を1枚に込めるというコンセプトのもと、1978年初頭に完成しました。

そして1978年11月3日、ドミニカ国の独立と同時に新国旗が採択されます。

劇作家が自国の国旗を一人でデザインするというのは、アンティグア・バーブーダのレジナルド・サミュエルやガーナのテオドシア・オコーと並ぶ、文化人による国旗デザインのカリブ海の事例です。

微調整の歴史

採用後、デザインは小規模に何度か修正されました。1981年に星の方向が調整され、1988年にはオウムの向きを旗竿側(左)を向く形に変更し、姿勢を実際の鳥に合わせて調整しています。1990年には星の黄色い縁取りが除去されました。

基本デザインは変わらず、細部だけが微調整されてきたというのは、長く愛される国旗の典型的なパターンです。


「ドミニカ国」 ── 日曜日の島

国名「ドミニカ国」(Commonwealth of Dominica)は、ラテン語の「Dies Dominica」(主の日=日曜日)に由来します。

コロンブスの命名

1493年11月3日(日曜日)、クリストファー・コロンブスの第2回航海中に、この島が発見されました。発見した曜日が日曜日だったことから、コロンブスは島を「ドミニカ(日曜日)」と命名します。「Dies Dominica」はラテン語で「主の日」という意味です。

発見された曜日が、そのまま国の名前になったという、世界でも珍しい国名由来です。

「ドミニカ共和国」との混同

注意したいのは、ドミニカ国(Dominica)とドミニカ共和国(Dominican Republic)は全く別の国だということです。

ドミニカ国ドミニカ共和国
場所カリブ海、小アンティル諸島カリブ海、大アンティル諸島(イスパニョーラ島東部)
面積約750km²約4.9万km²
人口約7.2万人約1,100万人
公用語英語スペイン語
独立1978年(イギリスから)1844年(ハイチから)
名前の由来コロンブスの発見曜日(日曜日)サント・ドミンゴ(聖ドミニコ)

名前が似ているが歴史も文化も全く別という、国際的にしばしば混同される2国家です。


ドミニカ国という国

ドミニカ国の基本情報です。

  • 正式名:ドミニカ国(Commonwealth of Dominica)
  • 首都:ロゾー(Roseau)
  • 面積:約750km²(東京都の約3分の1)
  • 人口:約7.2万人(小規模)
  • 公用語:英語
  • 準公用語:ドミニカ・クレオール語(フランス語ベース、現地名はクウェヨル Kwéyòl、学術的にはアンティル・クレオール語)
  • 独立:1978年11月3日(イギリスから)

「自然の島」

ドミニカ国の最大の特徴は、カリブ海でもっとも自然が手付かずに残された島であることです。「1年の日数分の川がある」と言われる365の川があり、熱帯雨林が国土の60%以上を占めます。9つの活火山を抱え、カリブ海でもっとも火山活動が活発な島でもあります。世界第2位の大きさの熱湯湖である沸騰湖(Boiling Lake)や、ユネスコ世界自然遺産のモルヌ・トロワ・ピトン国立公園も有名です。

近年は「カリブ海版コスタリカ」として、エコツーリズムの目的地として注目されています。

カリブの先住民「カリナゴ」

ドミニカは、カリブ海で唯一、カリナゴ(カリブ族)の先住民共同体が残る島です。島の東岸には3,700エーカーの自治区域であるカリナゴ・テリトリーがあり、約3,000人のカリナゴ族が暮らしています。バスケット織りといった伝統工芸や、文化・言語が継承されています。

コロンブス以前のカリブ海文化が唯一残っている島というのも、ドミニカの特別な意義です。


ちなみに:オウムが描かれた国旗

国旗に鳥が描かれた国は限られています。オウムに注目すると、はっきりオウムを描いているのはドミニカ国のミカドボウシインコです。ザンビアの国旗にもアフリカウオワシが描かれていますが、こちらはオウムではなく鷹で、鳥という意味での例です。

そして、ドミニカ国の国章には、もうひとつの鳥も描かれています。アカクビアマゾン(Jaco Parrot、もうひとつのドミニカ固有種)です。

国旗にオウム、国章にもう1種類のオウムというのは、ドミニカが「鳥の島」として国家アイデンティティを確立している証拠です。


まとめ:絶滅危惧種のオウムが、国旗の中心に

今回のドミニカ国旗まとめ。

  • 緑地+黄・黒・白の3色十字+赤い円+紫胸のミカドボウシインコ+10の緑星
  • 1978年11月3日、独立と同時に採択
  • デザイナーは劇作家アルウィン・バリー(1948-2023)
  • 細部は1981・1988・1990年に微調整
  • 緑=植生、黄=太陽・農産物・先住民、黒=黒土・アフリカ系住民、白=川と滝・希望
  • 赤い円=社会正義への決意
  • 十字=キリスト教の三位一体
  • 中央のオウムは「ミカドボウシインコ(シセル)」、ドミニカ固有種で2017年ハリケーン・マリア以降に激減、現在は野生50〜250羽未満(IUCN「絶滅寸前 / CR」、2019年に EN→CR に引き上げ)
  • 10の星=10の小教区(全てキリスト教の聖人名)
  • 国旗に紫色を含む数少ない国のひとつ(オウムの胸。エルサルバドル・ニカラグアの国章にも紫はあるが、メインシンボルに大きく紫を使うのはドミニカが特徴的)
  • 国名「ドミニカ」はコロンブスが1493年11月3日(日曜日)に発見したことから
  • 「ドミニカ共和国」とは全く別の国
  • 365の川と熱帯雨林の島、カリブで唯一カリナゴ先住民共同体が残る島

絶滅危惧種の固有種オウムが、国家の中心シンボルになった。ドミニカ国の旗は、カリブ海の小さな島が、自然そのものを国家アイデンティティの中核に据えた、世界でも珍しい1枚です。