黄・白・赤・青の4本の横帯、左側に緑の三角形、その上に三日月と4つの星。インド洋に浮かぶ小さな島国、コモロの国旗です。4本の帯と4つの星は、コモロを構成する4つの島を表しています。でも実はそのうち1つは、コモロが領有していない島だという、デリケートな事情を抱えた旗です。今回はそんなコモロ国旗の話です。


まずは構成のおさらい

コモロ国旗の構成は、けっこう複雑です。

  • 横4本の帯(上から):黄・白・赤・青
  • 旗竿側:緑の二等辺三角形(旗全体の高さに広がる)
  • 緑の三角形のなか:白い三日月(旗竿側に開く)と、4つの白い五芒星(三日月の内側に縦並び)

緑・三日月・星はイスラムの伝統的なシンボルで、コモロが国民の約99%をイスラム教徒が占める国であることを表しています。

そして4本の帯と4つの星には、コモロという国の本質が込められています。


4色は「4つの島」を表す

コモロの国旗の最大の特徴が、4本の横帯がそれぞれ国を構成する島を表すことです。

帯の色
モヘリ島(Mohéli、現地名 Mwali)
マヨット島(Mayotte、現地名 Maore)
アンジュアン島(Anjouan、現地名 Nzwani)
グランド・コモロ島(Grande Comore、現地名 Ngazidja)

そして4つの星も、同じ4つの島を象徴しています。4つの帯と4つの星、合計8つの島の象徴が、旗のなかに重ねて存在するという凝った設計です。

島の名前と色がちゃんと対応している。シンプルだけれど、コモロの国の構造を完全に旗に落とし込んだデザインです。


「マヨット島問題」── コモロが領有を主張する島

ここがコモロ国旗のいちばん深い話です。

白の帯が表すマヨット島は、実は現在フランスの海外県(département)であり、コモロは実効支配していません。

1975年、独立投票の結末

コモロは1975年、フランスからの独立を問う住民投票を実施しました。結果は次のとおりです。

  • モヘリ島:独立に賛成(多数)
  • アンジュアン島:独立に賛成(多数)
  • グランド・コモロ島:独立に賛成(多数)
  • マヨット島:独立に反対、フランス領残留を選択

3島はそのまま独立してコモロ連合を結成しました。マヨットだけはフランスに残ることを選び、その後現在までフランス領として続いています。

コモロ vs フランスの領有権争い

コモロは独立時から「マヨット島はコモロの領土だ」と主張し続けています。国連総会は1976年以降、コモロの主張を支持する決議を何度も採択しました(ただし国連総会決議は法的拘束力を持ちません)。1976年の国連安保理決議案では、コモロの主権を承認する内容が15理事国中11カ国の支持を得ましたが、フランスが単独で拒否権を行使しました。コモロ憲法にも、マヨット島がコモロの領土であることが明記されており、アフリカ連合(AU)もコモロの主張を支持しています。

一方、フランス側の立場はこうです。フランスは2011年、マヨットを「フランスの海外県」として正式化しました。マヨット島民は2009年の住民投票でこの地位を95%が支持しており、フランスは「住民自決の原則(国連決議1514号)」にもとづいて、マヨットはフランス領という立場を維持しています。

つまり、コモロが領有を主張し国連決議でも支持を得る一方、フランスは自国領として実効支配を続けている、主権が争われている状態が50年近く続いているわけです。

旗のなかの「マヨット」

そんな状況のなかで、コモロ国旗の白い帯と4つ目の星は、いまも「マヨット」を含めて描かれています。

これは「コモロは依然としてマヨットを領土とみなしている」というメッセージを、国旗で常に発信し続けているということです。国旗が政治的主張のツールになっているわけです。

実効支配していない領土を、国旗で主張し続ける。世界の国旗のなかでも、なかなか強いポリティカルなメッセージを持つ1枚です。


1975年以来、国旗は6回も変わってきた

コモロ国旗の現在のデザインは、2001年12月23日に採用されたもので、6代目の国旗にあたります。

コモロ国旗の歴史

1963年(自治領時代)には、フランスのデザイナー、シュザンヌ・ゴーティエが設計したオリジナルが使われました。緑地に白い三日月と4つの星(斜め配置)を配し、比率は5:7でした。

1975年7月6日の独立時には、1963年のデザインを継続して使用します。同じ緑地に4つの星と三日月という構成でした。

1975年8月から1978年のアリ・ソイリ政権では、独立直後のクーデタで社会主義路線へ進み、旗の3分の2が赤、星はダイヤモンド形配置に変わりました。

1978年のアハマド・アブダラ政権復帰では、保守路線へ回帰し、緑地に中央に三日月と星を線状配置するデザインになりました。

1992年には、新憲法とともに三日月と星を上向きに変更します。

1996年には、また新憲法で変更され、アラビア書道で「ムハンマド」「アッラー」の文字が追加されました。

そして2001年12月23日、現在のデザインになります。4色の横帯(4島を表す)に緑の三角とイスラムシンボルを組み合わせたものです。

独立から26年で6回も変わったというのは、世界の国旗のなかでもかなり頻繁な変更ペースです。政権交代や憲法改正のたびに旗が変わるというのはアフリカ独立国によく見られるパターンですが、コモロは特に多いといえます。

それでも「4つの島を象徴する」という基本コンセプトは、変化のなかでも一貫して受け継がれています。


コモロという国

コモロのことを少し補足しておきます。

  • 正式名:コモロ連合(Union of the Comoros)
  • 首都:モロニ(グランド・コモロ島)
  • 人口:約86万人(マヨットを除く3島)
  • 公用語:コモロ語、フランス語、アラビア語
  • 宗教:イスラム教(99%以上)
  • 経済:バニラ・クローブ・イランイランエッセンスなどの香料原料の世界的産地

世界のイランイラン香水原料の多くと、高級バニラの主要産地として、フレグランス・食品業界では重要な国です(バニラの世界最大の生産国はマダガスカルで世界の約42%、コモロは約1%程度ですが、イランイランは世界市場のかなりの割合を担っています)。

地理的には、マダガスカルとアフリカ大陸の間(モザンビーク海峡)に位置するインド洋上の小さな島々で、マダガスカルからは北東に約300kmの距離にあります。

インド洋に浮かぶ、イスラム教を信仰するアフリカの島国。コモロの独特の立ち位置が、4色の帯と緑の三角に表現されているわけです。


まとめ:4つの島、3つの主権、1つの国旗

今回のコモロ国旗のまとめです。

  • 黄・白・赤・青の4本横帯+緑の三角+白い三日月+4つの星
  • 2001年12月23日採用(独立以来6代目の国旗)
  • 4色と4つの星=コモロを構成する4つの島:
  • 黄=モヘリ島、白=マヨット島、赤=アンジュアン島、青=グランド・コモロ島
  • マヨット島は1975年の住民投票でフランス領残留を選択、現在もフランスの海外県(コモロは領有を主張、フランスは実効支配、主権争い中)
  • コモロ憲法・国連総会決議はコモロの領土と認定、国旗にも「白い帯」として含み続ける
  • 緑・三日月・星はイスラム教(国民の99%がムスリム)の象徴
  • 1975年の独立から2001年までに6回の国旗デザイン変更があったが、「4島を象徴する」コンセプトは一貫
  • バニラ・イランイランなど香料の世界的産地

実効支配していない島も含めて、4つを描き続ける。コモロの旗は、国旗が国の領土主張そのものになっている、ものすごく政治的な1枚です。