黒と白のジャイロニー(風車状の放射模様)、中央にポルトガル風の紋章。セウタの旗、北アフリカでモロッコに囲まれたスペインの自治市の旗です。スペイン領なのに、旗はリスボンの旗と同じ、紋章はポルトガル王国とほぼ同じという、世界でも稀な「スペイン領なのにポルトガル的」な1枚です。今回はそんなセウタ旗の話です。
まずは構成のおさらい
セウタ旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:黒と白のジャイロニー(gyronny、中心から放射状に分かれる風車模様)
- 中央:セウタ紋章(ポルトガル王国とほぼ同じ)
- 民間版:紋章なしの黒白ジャイロニーのみ
紋章は、次のように構成されています。
- 白地に5つの青い盾(十字型配置、各盾に5つの銀の円)
- 赤い縁取りに7つの金の城
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 黒と白のジャイロニー:リスボンの旗と同じで、1415年のポルトガル征服を記念します
- ポルトガル風の紋章:ポルトガル王国の遺産
スペイン領なのに、ポルトガルの遺産を旗と紋章に受け継いだ、世界でも極めて珍しい1枚です。
「スペイン領なのにポルトガル的」
セウタ旗の、世界的に独特な特徴を見ていきます。
リスボンの旗と同じ
セウタの黒白ジャイロニーは、ポルトガルの首都リスボンの旗と同一です。これは1415年、ポルトガルがセウタを征服したときに最初に掲げた旗であり、ポルトガルの旗がセウタで最初に翻ったことを意味します。
ポルトガルの紋章
そしてセウタ紋章は、ポルトガル王国の紋章とほぼ同じです。5つの青い盾と銀の円はポルトガルのキナス(ポルトガル国旗記事で紹介)にあたり、7つの金の城はポルトガルの城を表します。ポルトガル記事で紹介した「オウリケの戦いの5つの楯」が、スペイン領セウタの紋章にも現れているのは、興味深いつながりです。
なぜポルトガル的か
その理由は、歴史にあります。1415年、ポルトガルがセウタを征服しました。これはポルトガル海洋帝国の始まりでもありました。以後1415年から1640年までポルトガル領でしたが、1640年のイベリア連合解体時に、セウタはスペインに残ることを選びました。ポルトガル領だったのに、スペインを選んだのです。スペイン領になってもポルトガルの旗と紋章を継承した点に、セウタの独自性があります。
1415年 ── ポルトガル海洋帝国の始まり
セウタの、世界史的意義を見ていきます。
ポルトガルの最初の征服
1415年8月21日、ポルトガルがセウタを征服しました。これはポルトガル海洋帝国の最初の海外領土であり、大航海時代の起点でもあります。アンリ航海王子も参戦しました(ポルトガル記事で紹介)。
大航海時代の起点
セウタ征服は、ポルトガル大航海時代の始まりでした。1415年のセウタに始まり、喜望峰(1488年)、インド(1498年)、ブラジル(1500年)へと続きます。ヨーロッパのアフリカ・アジア・アメリカ進出の起点だったのです。国旗の黒白ジャイロニーは、1415年に世界史が動き始めた瞬間を象徴しています。
セウタという自治市
セウタの基本情報です。
- 正式名:セウタ(Ceuta)
- 法的地位:スペインの自治市(Ciudad Autónoma)
- 面積:約18.5km²
- 人口:約8.4万人
- 公用語:スペイン語
「北アフリカのスペイン飛び地」
セウタは、北アフリカにあるスペインの飛び地です。モロッコに完全に囲まれており、ジブラルタル海峡の対岸でジブラルタルと向かい合っています。アフリカ大陸にあるEU・スペイン領土です。
「メリリャと並ぶ」
セウタは、メリリャと並ぶスペインの北アフリカ自治市です。セウタとメリリャの2つがあり、両方ともモロッコが領有権を主張しています。スペイン版ジブラルタル問題ともいえ、スペインが英に主張するジブラルタルとは逆の構図です。スペインはジブラルタルの返還を英に求めますが、セウタやメリリャはモロッコに返還しないという、興味深い対比があります。諸説あり、評価は政治的立場によります。
「移民問題の最前線」
セウタは、ヨーロッパへの移民の玄関口でもあります。アフリカからEUに入る陸路の数少ない地点であり、国境フェンスを越える移民が国際的な人道問題となっています。
「ヘラクレスの柱」
セウタには、古代の伝説もあります。ヘラクレスの柱の一方がセウタの山(モンテ・アチョ)で、もう一方がジブラルタルの岩だとされ、古代世界の果ての印とされました。ジブラルタル記事でも触れたヘラクレスの柱、その対岸がセウタなのです。
まとめ:リスボンの旗、ポルトガルの紋章
今回のセウタ旗のまとめです。
- 黒と白のジャイロニー(風車状の放射模様)、中央のポルトガル風紋章
- 黒白ジャイロニーはリスボン(ポルトガル首都)の旗と同一
- 紋章はポルトガル王国の紋章とほぼ同じ(5つの青い盾、7つの金の城)
- 1415年8月21日、ポルトガルがセウタを征服したときに最初に掲げた旗を記念
- 1415-1640年ポルトガル領、1640年イベリア連合解体時にスペインを選択
- スペイン領なのに、旗と紋章はポルトガルの遺産
- 1415年セウタ征服がポルトガル海洋帝国・大航海時代の起点
- スペインの自治市、北アフリカのモロッコに完全に囲まれた飛び地
- ジブラルタル海峡の対岸(ジブラルタルと向かい合う)
- メリリャと並ぶスペインの北アフリカ自治市、モロッコが領有権を主張
- ヨーロッパへの移民の玄関口、国際的人道問題の最前線
- ヘラクレスの柱の一方(もう一方はジブラルタルの岩)
- 面積約18.5km²、人口約8.4万人
スペイン領なのに、ポルトガルの旗と紋章。セウタの旗は、1415年のポルトガル大航海時代の起点を記念する、世界でも稀な「他国の遺産を継承した」1枚です。