赤・黄・緑の横三色、中央に国章。これがボリビアの国旗です。しかしボリビアには、もう1つの公式国旗があります。先住民のアンデス文明から生まれた49色の方眼旗、ウィパラです。世界で唯一、2つの異なる国旗を公式に持つ国であり、しかも国名そのものが、解放者シモン・ボリバルから取られています。ラテンアメリカ独立の英雄物語と先住民文化が並存する1枚。今回はそんなボリビア国旗の話です。
まずは構成のおさらい
ボリビア国旗(トリコロール)の構成は、次のとおりです。
- 横3本の帯(上から):赤・黄・緑
- 中央:ボリビア国章
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 赤:ボリビアの英雄の勇気、独立闘争の血
- 黄:鉱物資源の富(ボリビアの銀・スズ・リチウム)
- 緑:国土の豊かな自然(アマゾン流域・森林)
国章は、次の要素で構成されています。
- 中央:ポトシのセロ・リコ山(銀の山)+リャマ+小麦
- 上:アンデス・コンドル(国鳥)
- 両側:6本の国旗、月桂樹とオリーブの枝(盾を囲む花輪)、斧
- 10の黄色い5角星:ボリビアの9つの県+失われたリトラル県(太平洋戦争で失った海岸地方)
ラテンアメリカ独立の血、鉱物の富、アンデスの自然という3要素を国章に凝縮した、典型的な南米独立国家の旗です。
「ウィパラ」── 2つ目の国旗
ボリビアの世界的な特徴は、公式に2つの国旗を持つ世界唯一の国だということです。
ウィパラとは
ウィパラ(Wiphala)は、アンデス先住民の伝統的な旗です。7×7=49個の正方形からなり、赤・橙・黄・白・緑・青・紫の7色が方眼状に並びます。色は対角線上に並ぶのが特徴です。
「クユスユ」のウィパラ
ボリビアが公式に採用したのは、クユスユ(Qullasuyu、現ボリビア地域)の南方ウィパラです。対角線の主要色は白で、古代インカ帝国の4地方のひとつ「クユスユ」を表します。アイマラ・ケチュア民族の伝統旗でもあります。
2009年憲法で公式化
2009年2月7日、エボ・モラレス大統領のもとで新憲法が発効しました。これによりウィパラが、トリコロールと並ぶボリビア国旗として公式に採択されます。憲法第6条第2項は「国旗はトリコロールとウィパラ」と定め、政府機関ではトリコロールとウィパラを並列で掲揚するようになりました。
ヨーロッパ系の三色旗と先住民の方眼旗が並ぶ、世界で唯一の二重国旗体制です。初の先住民系大統領であるエボ・モラレス(2006-2019)の改革の象徴でもあります。
エボ・モラレスの先住民革命
エボ・モラレスは、ボリビア初の先住民系大統領です。アイマラ族出身で、2006年から2019年まで3期14年にわたって在任しました。在任中はボリビアを「多民族国家」として再定義し、2009年には国名を「ボリビア共和国」から「ボリビア多民族国」へと変更しています。
国旗のなかに、先住民と植民地時代の遺産が共存している。それが現代ボリビアです。
1851年 ── トリコロールの誕生
ここからは、ボリビア・トリコロールの制定史を見ていきます。
1825年、ボリビア独立
ボリビアは、1825年8月6日にスペインから独立しました。解放者シモン・ボリバルがその立役者であり、国名「ボリビア」の由来ともなった人物です。ボリバル自身がボリビア共和国を建国しました。
「ボリバルからの命名」
国名「ボリビア」は、シモン・ボリバルから取られています。「Bolívar」に、土地を表すラテン語の接尾辞「-ia」をつけたもので、「ボリバルの国」という意味になります。
世界で唯一、特定の個人の名前が国名になった例として語られることもありますが、コロンビア(コロンブスから)、アメリカ合衆国(アメリゴ・ヴェスプッチから)と並ぶ、人物由来の国名のひとつです。ただし、現存する近代の解放者から命名された唯一の国です。
1851年、現行トリコロール
そして1851年7月14日、マヌエル・イシドロ・ベルズ大統領のもとで現行の国旗が制定されました。赤・黄・緑の横三色に、中央に国章を配したデザインです。以後170年以上、基本構造は変わっていません。
ポトシのセロ・リコ ── 銀の山
ボリビア国章の中央に描かれているのが、ポトシのセロ・リコ(Cerro Rico、「富の山」)です。
「世界一の銀の山」
セロ・リコは、16〜17世紀のスペイン植民地時代に、世界最大の銀鉱でした。ふもとのポトシ市はかつて世界最大の都市のひとつで、17世紀には人口20万人を数え、当時のロンドンやパリに匹敵しました。ここからスペインへ膨大な銀が供給され、「Vale un Potosí(ポトシ並みの価値がある)」というスペイン語の慣用句まで生まれます。この銀の山が、現代の世界経済の基盤を作ったとも言われます。
先住民労働者の犠牲
しかしポトシの銀採掘は、先住民労働者の悲劇でもありました。ミタ制度と呼ばれる強制労働のもと、数百万人のアンデス先住民が銀採掘で命を落としたとされます(数字には諸説あり)。「アメリカ大陸の最初のジェノサイドのひとつ」とも呼ばれる出来事です。
国旗の赤は独立闘争の血であると同時に、植民地時代の先住民の血でもある。そんな重い歴史を持つ国旗です。
「ボリビアは未来のリチウム大国」
そして21世紀のボリビアです。ウユニ塩湖の地下には世界最大級のリチウム埋蔵量が眠っており、電気自動車用電池の原料として「未来の銀の山」と注目されています。
国旗の黄色は、銀からリチウムへと続く500年の鉱物の歴史を象徴するものとして、現代にも受け継がれています。
ボリビアという国
ボリビアの基本情報です。
- 正式名:ボリビア多民族国(Estado Plurinacional de Bolivia)
- 憲法上の首都:スクレ(Sucre)
- 実質首都・政府所在地:ラパス(La Paz、世界最高地の首都、3,640m)
- 面積:約110万km²
- 人口:約1,200万人
- 公用語:スペイン語+36の先住民言語(憲法上)。世界最多級です
- 宗教:ローマ・カトリック(約77%)
「世界最高地の首都」
ラパスは、ボリビアの事実上の首都です。標高3,640mは世界最高地の首都であり、エルアルト空港は標高4,061mと世界最高地の主要空港です。都市が垂直に広がり、標高によって生活が変わるのも特徴です。
「内陸国」
ボリビアは南米の内陸国です。1879年から1884年の太平洋戦争(南米太平洋戦争)でチリに敗れ、アタカマ海岸を失って、海への直接アクセスを失いました。以来、内陸国であり、今も「海への権利」を国家目標として主張し続けています。
国章の馬蹄形の盾は、太平洋戦争で失われた海岸線への記憶です。ボリビアの集合的トラウマを国旗中央に込めた、極めて感情的なシンボルだと言えます。
「36の公用語」
ボリビアは、世界で最も公用語が多い国のひとつです。2009年憲法は、スペイン語に加えて36の先住民言語を公用語と定めました。主要な先住民言語には、ケチュア語(約280万人)、アイマラ語(約180万人)、グアラニー語(約6万人)などがあります。まさに「先住民文化の公式化」と言えるものです。
国旗のウィパラは、こうした36の先住民言語の象徴でもある。それが現代ボリビアの多文化主義です。
「世界の標高的首都」と「リチウム三角地帯」
ボリビアには、世界に誇る地理的な名所が点在します。ウユニ塩湖は約1万km²と世界最大の塩湖で、世界的な観光地です。ティチカカ湖は標高3,810mに位置する世界最高地の航行可能湖で、ペルーと共有しています。主要都市としては、ラパス、サンタクルス、コチャバンバが挙げられます。
ちなみに:「2つの国旗」の現実
ここでは、2つの国旗が実際にどう運用されているかを見ていきます。
政府機関での扱い
公式機関では、両旗が並列で掲揚されます。観察者から見て、トリコロールを右、ウィパラを左に置き、同じ高さ・同じサイズで掲げます。政府ビル、議会、軍などで標準的に併用されています。
国民の反応
ただし、国民の反応は分かれています。支持派は「先住民文化の正式な認知」として歓迎する一方、反対派は「国旗が2つあるのは不自然だ」「分断を生む」と批判します。特に2009年の制定時には大きな議論となりました。
ニュージーランドのマオリ旗(ティノ・ランガティラタンガ旗)、英国のウェールズ旗・スコットランド旗と並ぶ、二重旗体制だという見方もあります。ただし、ボリビアは「2つの旗が国旗」という意味で唯一の存在です。
まとめ:2つの国旗、500年の歴史
今回のボリビア国旗のまとめです。
- 赤・黄・緑の横三色+中央のボリビア国章(トリコロール)
- 1851年7月14日、マヌエル・イシドロ・ベルズ大統領下で現行版制定
- 2009年2月7日、新憲法でウィパラ(先住民方眼旗)も公式国旗に
- 世界で唯一、公式に2つの国旗を持つ国
- 赤=独立闘争の血、黄=鉱物資源の富、緑=自然と森林
- 国章中央のセロ・リコ(ポトシの銀の山)=植民地時代の世界最大の銀鉱
- 国章下の馬蹄形の盾=1879-1884年太平洋戦争で失われた海岸線
- 10の黄色い星=9つの県+失われたリトラル県(1879-1884年太平洋戦争で喪失した海岸地方)
- 国名「ボリビア」=シモン・ボリバル(解放者)から命名
- 1825年8月6日、スペインから独立、ボリバル自身が建国
- ウィパラは7×7=49個、7色の方眼旗、アンデス先住民の伝統
- クユスユ(古代インカの4地方のひとつ)の南方ウィパラを公式採用
- エボ・モラレス(2006-2019、初の先住民系大統領)の改革で2009年に公式化
- 正式名「ボリビア多民族国」(2009年-)
- 憲法上の首都スクレ、実質首都ラパス(世界最高地、3,640m)
- 公用語はスペイン語+36の先住民言語(世界最多級)
- ウユニ塩湖(世界最大の塩湖)、世界最大級のリチウム埋蔵量
- 内陸国、太平洋戦争(1879-1884)で海への直接アクセスを失う
500年前の銀の山と、49色の方眼旗が共存する。ボリビアの国旗は、植民地時代の遺産と先住民文化の和解を、世界で唯一の二重国旗体制で表現した国家の姿です。