ロイヤルブルーの地、上下に赤い帯。中央には大きな白い円があり、その中に2人の人間が立つ国章が描かれています。これがベリーズの国旗、中央アメリカのマヤ文明の地に建つ国の旗です。世界で最も多くの色を含む国旗のひとつで(公式に色数は規定されておらず、グラデーションや細部をどこまで含めるかで12色とも、20色以上とも数えられます)、マルタと並んで、世界でわずか2か国だけ「人間が描かれた」国旗でもあります。今回はそんなベリーズ国旗の話。


まずは構成のおさらい

ベリーズ国旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:ロイヤルブルー
  • 上下:細い赤い帯
  • 中央:白い円+ベリーズ国章

国章の構成(極めて複雑)は、以下のとおりです。

  • :3区画、木こりの道具(斧・パドル)+帆船
  • 盾の上:マホガニーの木、ベリーズの伝統的な木材産業
  • 両側:2人の男性、メスチソ(白+先住民の混血)とアフリカ系の男性
  • 下のリボン:国是「Sub Umbra Floreo(陰の下に咲く)」、ラテン語
  • 盾の周り:マホガニーの葉50枚、1950年人民統一党(PUP)創立を記念

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :人民統一党(PUP、独立運動を主導)
  • 赤(上下):統一民主党(UDP、野党)
  • :平和、統一
  • :マホガニーの葉
  • その他:人物の肌色・服の色など、極めて多彩

1枚の旗に、政治・経済・人種・文化のすべてを込めた、世界の国旗のなかで最も情報量が多い1枚です。


「世界で最も色が多い国旗」

ベリーズ国旗の最大の世界的特徴は、最も色が多いことです。

12色以上

ベリーズ国旗の色を数えると、次のようになります。

  1. ロイヤルブルー(背景)
  2. 赤(上下の帯)
  3. 白(中央の円)
  4. 緑(マホガニーの葉)
  5. 黒(描線、人物の髪)
  6. 黄/金(道具の金属部分、紋章)
  7. オレンジ(人物の肌色など)
  8. 茶(マホガニーの幹、道具の柄)
  9. クリーム色(人物の服)
  10. 濃い緑(マホガニーの濃い葉)
  11. 薄い緑(マホガニーの若い葉)
  12. 灰色(陰影)

国旗で「最も色が多い」のはベリーズだとして、世界の国旗マニアの間で有名です。正確な色数は数え方によりますが、詳細な紋章のなかで微妙な色彩を含めると20色以上ともされます。

なぜ色が多いか

理由は、国章の人物・道具・植物の細部まで色付けされているためです。2人の男性の肌色、服、髪、マホガニーの木の幹と葉、斧・パドル・帆船の細部まで、こまやかに彩色されています。

国章の絵画的な詳細さというのが、色の多さの本質です。アンドラ・エクアドル・ハイチなど、国章を含む国旗は色が多くなる傾向がありますが、ベリーズは特に詳細です。


「人間が描かれた国旗」 ── 世界に2つだけ

ベリーズ国旗のもうひとつの世界的特徴は、人間が描かれていることです。

世界に2か国だけ

国旗に人間(具体的人物または擬人化された人物)が描かれた国は、世界でわずか2か国です。ベリーズは2人の男性(メスチソ+アフリカ系)が国章を支えています。マルタはジョージ・クロス、すなわち第二次大戦中の英国国王の人物的シンボルです(諸説あり)。

実は他にもあるという解釈もあります。サンマリノ国旗の国章にはティアラが、エクアドル国旗の国章にはコンドル等の動物が登場しますが、人間が直接描かれているのはベリーズが最も明確です。

「メスチソとアフリカ系」

ベリーズ国旗には、2人の男性が描かれています。左の男性はメスチソ、ヨーロッパ系と先住民(マヤ族)の混血です。右の男性はアフリカ系の男性です。

多民族国家ベリーズの2大民族を、国旗の中央に立たせています。「人種の調和」を視覚化した、世界で唯一の構図です。

なぜこの2人か

ベリーズの民族構成は、次のとおりです。

  • メスチソ:約53%(マヤ+スペイン系混血)
  • クレオール(アフリカ系):約26%
  • マヤ族:約11%
  • ガリフナ(カリブ+アフリカ混血):約6%
  • 他:白人・ドイツ系メノナイト・中国系など

国旗に描かれた2人が、最大の2グループにあたるというシンボリズムです。マヤ族とガリフナが含まれない点は、現代から見ると不完全かもしれませんが、1950年代のデザイン当時の主要民族を表しています。


マホガニー ── ベリーズの伝統産業

国旗中央のマホガニーの木は、ベリーズの歴史を象徴しています。

「マホガニー伐採の歴史」

ベリーズは、もとは「英領ホンジュラス」(British Honduras)でした。17世紀、イギリス人がマホガニー伐採のために定住し、「海賊から伐採者へ」という形でイギリスの公式植民地となっていきました。マホガニーは家具・造船・楽器の最高級木材であり、18世紀から19世紀にかけて、ベリーズは世界の高級家具市場の主要供給地でした。

「Sub Umbra Floreo」

国章の国是は、ラテン語で「Sub Umbra Floreo」です。「Sub」は下に、「Umbra」は陰、「Floreo」は栄える・咲くを意味します。あわせて「陰の下に咲く」となり、マホガニーの大きな葉の下で育つベリーズ人を表しています。

マホガニーの木に守られてベリーズ国民が繁栄するというメッセージです。世界の国是のなかでも、特に詩的なフレーズのひとつです。

50枚のマホガニーの葉

国章を取り囲むのは、50枚のマホガニーの葉です。1950年の人民統一党(PUP)創立を記念しています。PUPは独立運動を主導した政党で、「1950年の独立運動の始まり」を、葉の数で表現しているのです。

国旗に政党の創立年を込めるというのは、世界の国旗のなかで珍しい例です。ベナンやアンゴラなどのアフリカ諸国でも、政党旗を国旗に継承する例がありますが、創立年を葉の数で表現するのはベリーズ独自です。


1981年9月21日 ── 独立

ベリーズ国旗の正式採択について見ていきます。

イギリス植民地時代

ベリーズの歩みをたどると、1638年にイギリス人が初めて定住し、1862年に正式な植民地「英領ホンジュラス」となりました。1973年に名前を「ベリーズ」へ変更し、1981年9月21日に独立を果たします。

グアテマラとの領土問題

ベリーズには、長年の課題があります。グアテマラとの領土紛争です。グアテマラはベリーズ全土を自国領と主張しており(1859年条約の解釈を巡るもの)、1981年の独立後も対立が続いています。現在も国境問題は完全には解決しておらず、2024年時点で国際司法裁判所において審理中です。

国旗の青は平和を表しますが、現実には領土紛争があるというのが、現代ベリーズの一面です(諸説あり、評価は国・立場により異なります)。

「青と赤」 ── 政党色の妥協

独立時の国旗には、興味深い政治的経緯があります。元々のデザインは青地のみに国章を配したもので、これは人民統一党(PUP)の色でした。これに対し、野党の統一民主党(UDP)が「自分たちの色(赤)も国旗に」と抗議します。妥協の結果、上下に赤い帯が追加されました。

国旗のデザインで与党と野党が妥協したというのは、世界の国旗のなかで珍しい民主的なプロセスです。ナミビア(3人の融合)と並ぶ、政治的妥協の事例です。


ベリーズという国

ベリーズの基本情報です。

  • 正式名:ベリーズ(Belize)
  • 首都:ベルモパン(Belmopan、1970年にベリーズシティから移転)
  • 最大都市:ベリーズシティ(Belize City)
  • 面積:約2.3万km²
  • 人口:約42万人
  • 公用語:英語(中央アメリカで唯一の英語圏)
  • 準公用語:スペイン語、ベリーズ・クレオール、マヤ語
  • 宗教:ローマ・カトリック(約40%)、プロテスタント(約32%)

「中央アメリカの英語圏」

ベリーズは、中央アメリカで特異な存在です。中央アメリカで唯一の英語公用語国であり、周辺諸国(グアテマラ・ホンジュラス・メキシコ)はすべてスペイン語圏です。これはイギリス植民地時代の遺産です。

国旗の青は英連邦の青を表すシンボルでもあり、英連邦加盟国としての歴史を継承しています。

「マヤ文明の地」

ベリーズには、世界的に重要な歴史があります。マヤ文明です。カラコル・シュナントゥニッチ・ラマナイなどのマヤ遺跡があり、古典期マヤ(紀元250-900年)の重要な都市が栄えました。国土の約60%が熱帯雨林に覆われています。

「世界第2位のサンゴ礁」

ベリーズには、貴重な自然遺産があります。ベリーズ・バリア・リーフです。世界で2番目に大きいサンゴ礁(グレート・バリア・リーフに次ぐ)で、ユネスコ世界遺産に登録されています。なかでもグレート・ブルーホールは、直径305m、深さ124mの円形の海中洞窟で、世界的に有名なダイビングスポットです。


ちなみに:「ベリーズ」の名前の由来

国名「ベリーズ」(Belize)の由来には、諸説あります。

主な説

主な説は3つです。ベリーズ川から来たという説(17世紀のイギリス人海賊ピーター・ウォーリス(Peter Wallace)が河口に定住し、彼の名前がスペイン語化したというもの)、マヤ語「Belikin」(濁った水)から来たという説、そしてフランス語「Balise」(航海標識)から来たという説です。

いずれも諸説あり、明確な起源は不明です。


まとめ:世界で最も多色、人間が立つ国旗

今回のベリーズ国旗まとめ。

  • ロイヤルブルーの地+上下の赤い細い帯+中央の白い円+ベリーズ国章
  • 1981年9月21日、独立と同時に正式採択
  • 国章にはメスチソとアフリカ系の2人の男性、マホガニーの木、木こりの道具、帆船
  • 国是「Sub Umbra Floreo(陰の下に咲く)」、ラテン語
  • 50枚のマホガニーの葉=1950年人民統一党(PUP)創立を記念
  • 世界で最も色が多い国旗のひとつ(公式に色数の規定はなく、数え方により12〜20色以上)
  • 世界で2か国(ベリーズとマルタ)だけ、明確に人間が描かれた国旗
  • 青=人民統一党(PUP)、赤=統一民主党(UDP)、与野党の妥協で2色採用
  • 1638年イギリス人初定住、1862年「英領ホンジュラス」、1973年「ベリーズ」改称
  • 中央アメリカで唯一の英語公用語国
  • マヤ文明の地、カラコル・シュナントゥニッチ等の遺跡
  • ベリーズ・バリア・リーフは世界第2位のサンゴ礁(ユネスコ世界遺産)
  • グレート・ブルーホール(直径305m、深さ124m)
  • グアテマラとの領土問題が独立以来継続中

最も多くの色、最も詳細な国章、人間が立つ唯一の国旗。ベリーズの国旗は、多民族国家の多様性と政治的妥協の歴史を、極めて密度の高い1枚に込めた、世界で最も情報量の多い国旗です。