「あれ、日の丸?」と思ったことがある人、たぶん多いはず。緑の地に赤い丸。たしかに似てる。でもこの旗、日本の国旗と比べると「似てるのにこんなに違うのか」という話がいくつも出てきます。そして何より、この旗の裏側にある歴史がとにかく重くて、深くて、おもしろい。
まず「似てる」を整理しよう
日の丸とバングラデシュ国旗、並べてみると確かに「丸がある旗」という共通点があります。でも実はけっこう違うんです。
| バングラデシュ | 日本 | |
|---|---|---|
| 地の色 | 濃い緑 | 白 |
| 丸の色 | オレンジ寄りの赤 | 紅色 |
| 丸の位置 | 旗竿側にちょっとズレてる | 中央(1999年以降) |
色も比率も微妙に違って、並べてみると「ぜんぜん違う旗」とも言えるんですよね。
その丸、実はズレてる
ちょっとマニアックな話から入ります。
バングラデシュ国旗の赤い丸は、実は旗の中心より旗竿側に「20分の1」だけズレて配置されています。
理由は日の丸と同じ発想で、「旗がはためいたときに、目で見て中央に見えるように」という錯視補正です。風でなびくと遠い側の布が大きく揺れるため、正中に描くと右にズレて見えてしまう。それを見越してあらかじめ左に寄せておく、という職人的こだわりです。
ちなみに日本の国旗も、1870年の太政官布告第57号(商船規則)では「横の長さの100分の1」だけ旗竿側にズレる規定でした(同年の陸軍御国旗などは中央配置)。1999年の国旗国歌法で中央に統一されて現在に至ります。バングラデシュの20分の1のズレはそれよりもっと大きくて、はっきりわかるレベルです。
「日の丸を参考にした」って本当?
ここ、けっこう気になる話ですよね。
2014年、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相が早稲田大学の講演で「父(ムジブル・ラフマン初代大統領)は日本に魅せられ、日の丸のデザインを取り入れた」と発言しました。日本のメディアでも大きく報じられ、それ以来「バングラデシュ国旗は日の丸がルーツ」という話が広まっています。
ただ、これを「確定事実」と断言するのはちょっと慎重になったほうがいい、という声もあります。
当時バングラデシュにいた日本人旗章学者・吹浦忠正氏は、自身が現地指導者に伝えたのは「国旗の縫い方に関する製造上のアドバイス」であって、デザインそのものへの関与ではなかった、と明言しています。さらに「似ているからといって日本起源というのは、日本人から言うべきことではないのでは」とも述べています。
つまり「首相の親日メッセージとして語られた話」と「設計の一次資料による裏付け」は、まだイコールではないんです。こういう「事実のグレーゾーン」も国旗の面白さだったりします。
この旗が生まれた夜の話
バングラデシュ国旗には、誕生の瞬間がはっきり記録されています。
1970年6月6日の深夜(または7日未明)のこと。ダッカ大学のイクバル・ホール116号室に、独立運動の学生グループが集まっていました。彼らが議論してデザインを決め、近くの仕立て屋から布をもらって旗を縫い上げた。赤い丸の中央には、まだ黄色でベンガルの地図が描かれていました。
この旗が初めて掲揚されたのは1971年3月2日、ダッカ大学の屋上でのことです。バングラデシュの独立宣言(3月26日)より3週間以上前のことでした。国が生まれる前に、旗が先にあったわけです。
独立後の1972年に、画家のカムルル・ハサンが地図を取り除き、赤い丸を旗竿寄りに調整した現在のデザインに整えました。「独立を求めて戦う旗」から「独立した国の旗」へ。地図が消えたのは、「もうベンガルは独立したから、地図で主張しなくていい」という意味でもありました。
緑と赤が意味するもの
デザインはシンプルですが、色の意味はとても重いです。
緑は、バングラデシュの豊かな大地と若さを表しています。国土の大部分を占める緑の田園と、ガンジス川流域の肥沃な土地のイメージです。
赤は二重の意味を持っています。ひとつは「地平線から昇る太陽」。もうひとつは、1971年の独立戦争で命を落とした人たちの血です。
この独立戦争は、旧西パキスタンの軍によるベンガル人への弾圧から始まりました。犠牲者は数十万〜数百万人とも言われ(推定に幅があります)、非常に深刻な歴史的事件です。その痛みと犠牲が、旗の赤に込められている。シンプルな丸ひとつに、これだけの重みがあるんです。
27,117人で「人間国旗」を作った国
バングラデシュ、実は「国旗愛」が世界トップクラスです。
2013年12月16日(勝利の日)、ダッカのナショナル・パレード・グラウンドに27,117人が集まり、赤と緑のプラカードを掲げて「人間で作る最大の国旗」として当時のギネス世界記録を樹立しました(その後インドなどに更新されています)。
タイミングも意味深で、この日はかつての敵国パキスタンが持っていた記録(24,200人)を、パキスタンとの独立戦争の勝利記念日に奪い返したという、なかなかドラマチックな話です。
さらに2014年3月26日(独立記念日)には、254,681人が同時に国歌を斉唱してこちらもギネス認定。国の誕生を、これだけ大勢で祝う国もなかなかないですよね。
ついでに:パラオの旗とも比べてみる
「丸い旗」といえばパラオも有名です。青地に黄色い丸で、一見バングラデシュや日本とも似てる。
でもパラオの黄色い丸は「太陽」でも「太陽光」でもなく、「満月」です。漁や農耕やカヌー作りに最適な満月の光、という意味。青はインド洋・太平洋ではなく、「外国統治から抜け出した自立」を表しています。
パラオのデザイナーは「日の丸を参考にした」という説を公式に否定していて、こちらも「似てるけど全然別物」。3つ並べてみると、シンプルな丸ひとつでこれだけ違う話になるのが面白いですよね。
まとめ:シンプルな旗に、壮大な物語がある
今回のバングラデシュ国旗まとめ。
- 緑地に赤い丸、日の丸に似てるようで色も比率も違う
- 赤い丸は旗竿側に「20分の1」ズレている(錯視補正)
- 「日の丸参考説」はハシナ首相の発言がベース、設計者の一次資料による確認はまだない
- 国旗は1970年の深夜、大学の部屋で学生たちが生み出した
- 独立宣言より3週間早く、旗が先に掲揚されていた
- 緑=豊かな大地、赤=昇る太陽+独立戦争で流れた血
- 2013年12月16日に27,117人で「人間国旗」のギネス記録を樹立、2014年3月26日に254,681人で国歌斉唱のギネスも
「丸い旗」ってシンプルそうで、掘ればこんなに出てくるんです。次は同じ「丸い旗」仲間のパラオへ。お楽しみに!