カリブ海の小さな双子島、アンティグア・バーブーダ。その国旗は、「美術教師が30分で描き上げて、締切ぎりぎりに提出した作品」がそのまま国の旗になった、という痛快なエピソードを持っています。今回はそんなアンティグア・バーブーダ国旗の話です。
まずは構成のおさらい
アンティグア・バーブーダ国旗は、結構複雑な構造をしています。
- 背景:赤
- 中央:逆V字(▽)の形で内側へ食い込むように、黒・水色(細)・白の3つの横帯
- 太陽:黒帯の上にのぼってくる太陽(金色、7本の光線)
要素は多いんですが、配色のセンスが抜群で、全体としてとてもバランスのいい旗です。カリブの旗らしさが凝縮されていて、見たことがある人は印象に残っているはずです。
デザイナーは、30分で描き上げた美術教師
アンティグア・バーブーダ国旗を作ったのは、サー・レジナルド・サミュエル(Sir Reginald Samuel)です。地元のアンティグアに住む高校の美術教師で、絵画と彫刻の制作も手がけていた人物でした。
1966年〜67年、自治政府発足を控えたアンティグアでは国旗デザインのコンテストが開催され、なんと600件以上の応募が集まりました。
そんな中、サミュエルが描いたのは、締切ぎりぎりに、わずか30分でラフを描き上げた1枚でした。アンティグア・バーブーダ博物館の記録によると、彼は最後の最後で滑り込みで提出して、それが審査を勝ち抜いたといいます。
「先生、30分でこれ描いた」というのは、ちょっとカッコよすぎますよね。
そして1967年2月27日、自治政府の発足とともに、この旗が正式採用されました。サミュエルは後年、その功績で騎士の称号(Sir)を受けています。
「V=Victory」、太陽の光線は「7本」
このデザインは、要素ひとつひとつにちゃんと意味があります。
「V字」は勝利のサイン
旗の中央にある逆V字、これは「Victory(勝利)」のVです。植民地時代を経て自治を勝ち取った、という意味が込められています。チャーチルの「Vサイン」と同じ系譜の象徴ですね。
上から「黒・黄・青・白」は4つの自然
V字の中の色配置は、太陽から下に向かって黒・黄・青・白と並んでいます。それぞれ、黒は島の肥沃な土、黄は太陽、青はカリブ海、白は白砂のビーチを表しています。
カリブの島国の自然そのものを、上から下にレイヤーで重ねた構成です。国旗に「島の風景」をそのまま描き込んだみたいな発想で、これがとてもうまい。
太陽の光線は「7本」
中央の太陽は、よく見ると7本の光線を持っています。これにも意味があって、アンティグア島の6つのパリッシュ(教区行政区)に、バーブーダ島を加えた、合計7つの行政単位を表しています。
ちなみに、この「7本」が正式に規定されるまでには少し歴史があります。1994年の標準化以前は、製造ロットによって光線数がバラバラで、多いときは20本も描かれていた、という驚きの事実が記録されています。「7本」と固まったのは、行政区との対応関係をはっきりさせるためだったわけです。1つの太陽に国の構成要素すべてが収まっているいまの形は、デザイナー本人の当初の意図というよりは、国としてあとから整えた解釈でもあるんです。
色そのものの意味
色そのものにも、それぞれ意味が込められています。黒はアフリカ系の祖先、青は希望とカリブ海、赤は人々の活力・生命力を表し、昇る太陽は新しい時代の夜明けを意味します。
「Victory」「夜明け」「祖先と未来」。独立直前の希望が、まるまる旗に詰め込まれています。
採用は「自治」、独立はその14年後
ちょっと興味深いのは、この旗が採用された1967年は、独立ではなく自治政府発足のタイミングだということです。
当時アンティグアはイギリスの西インド連邦の一部で、まだ完全独立していませんでした。1967年に「準連合国(associated state)」となり、自治政府を発足させます。そして14年後の1981年11月1日、ようやく完全独立を達成しました。
国旗は自治政府発足とともに採用され、独立後もデザインを変えずに使い続けています。「自治の旗」がそのまま「独立国の旗」になった、というあたりに、この国の独立の連続性が表れています。
まとめ:30分の即興が、永遠の国旗になった
今回のアンティグア・バーブーダ国旗のまとめです。
- 赤地に逆V字、黒・黄・青・白の横帯と上る太陽
- 1966-67年のコンテストで600件以上の応募から選出
- デザイナーは高校美術教師のレジナルド・サミュエル(後にナイト称号)
- わずか30分で描き上げ、締切ぎりぎりに提出
- 1967年2月27日、自治政府発足とともに採用(独立はその14年後の1981年)
- V字=Victory(勝利)、上る太陽=新時代の夜明け
- 太陽の7本の光線は6つのパリッシュ+バーブーダ島を表す(1994年に正式に7本へ標準化。それ以前は最大20本も描かれていた)
- 黒・黄・青・白=土・太陽・海・砂(カリブの自然そのもの)
「30分の即興で生まれたデザインが、ずっと国を象徴し続けている」。アンティグア・バーブーダの旗は、デザインの妙が国の歴史と重なる希少な1枚なんです。