青地に、左から白い大きな三角形(赤い縁取り)、その中にハクトウワシ。爪にはファウェ(蠅払い)とウアトギ(戦棍棒)を握っています。アメリカ領サモアの旗、太平洋のサモア諸島東部にある、アメリカ合衆国の海外領土の旗です。1960年、地元の高校生のデザインが選ばれたという、世界の旗のなかでも稀な誕生物語を持つ1枚です。今回はそんなアメリカ領サモア旗の話です。
まずは構成のおさらい
アメリカ領サモア旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:青
- 白い三角形:左から右に伸び、赤い縁取りがある
- 三角形のなか:ハクトウワシ(アメリカの国鳥)
- ハクトウワシの爪:
- 黄色のウアトギ(戦棍棒)
- ファウェ(蠅払い、長い柄)
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 青・白・赤:アメリカ合衆国とサモアの伝統色(両者が共有する色)
- ハクトウワシ:アメリカ合衆国との繋がり
- ウアトギ(戦棍棒):政府の力、必要時に自衛する能力
- ファウェ(蠅払い):サモアの伝統的指導者の知恵、首長の象徴
アメリカと伝統サモアという2つのアイデンティティの融合を示す、海外領土旗らしい構成です。
ファレティ・ソトア ── 高校生デザイナー
アメリカ領サモア旗の、世界的に珍しい誕生を見ていきます。
サモアナ高校のコンテスト
1960年、サモアナ高校(Samoana High School)でデザインコンテストが開かれました。アメリカ領サモア独自の旗を公募するもので、当選したのは同校の生徒、ファレティ・ソトア(Fareti Sotoa)でした。
高校生のデザインが領土の公式旗になったというのは、星条旗50星版を考案したボブ・ヘフト(17歳)、パプアニューギニア国旗のスーザン・カリケ(15歳)と並ぶ、若い才能が国家・領土のシンボルを生んだ稀な例です。
アメリカ陸軍紋章学院
ファレティ・ソトアのデザイン案は、アメリカ陸軍紋章学院(U.S. Army Institute of Heraldry)に送られて正式化されました。彼のデザインを基に細部を整え、アメリカ領としての正統性を確保したのです。これは高校生とアメリカ陸軍紋章学院という、民間と公的機関のコラボレーションでした。
1960年4月17日 ── フラッグ・デーに掲揚
アメリカ領サモア旗の、正式採択を見ていきます。
1960年4月、星条旗から領土旗へ
1960年4月、アメリカ領サモア旗が公式に採択されました。それまではアメリカ星条旗を領土の旗として使っていましたが、1960年から独自の領土旗を採用したのです。
1960年4月17日、初掲揚
1960年4月17日、フラッグ・デー(Flag Day、アメリカ領サモアの旗の日)に新しい旗が初めて掲揚されました。以後、毎年4月17日はFlag Dayとして領土の祝日となり、アメリカ領サモアで最も重要な祝日のひとつになっています。
領土の旗の日が国民的な祝日になっているのは、トンガやトルコなどと同様、旗を大切にする文化を象徴しています。
ウアトギとファウェ ── サモア首長の象徴
旗の中心にある2つの伝統工芸品、ウアトギとファウェについて見ていきます。
ウアトギ(戦棍棒)
ウアトギ(Uatogi)は、サモアの伝統的な戦棍棒です。木製で長さは約60cm、古代サモアの戦士の武器でした。政府の力、そして必要時の自衛能力を表しています。
ファウェ(蠅払い)
ファウェ(Fue、Fly-whisk)は、サモアの首長(マタイ)の象徴です。動物の毛と長い柄で作られ、重要な儀式やスピーチで首長が手に持つもので、知恵と権威を表します。
「武器と知恵」 ── サモア統治の二面性
ウアトギ(力)とファウェ(知恵)の組み合わせは、サモア伝統のマタイ(首長)統治制度の本質を表しています。サモア人は妥協できる、しかし必要なら自衛もできる、という平和と決意の両立です。
ハクトウワシ(アメリカ)が、サモアの伝統工芸品を握る。このシンボルは、領土と本国の関係を視覚化した、世界でも珍しいデザインです。
アメリカ領サモアという領土
アメリカ領サモアの基本情報です。
- 正式名:アメリカ領サモア(American Samoa)
- 首都:パゴパゴ(Pago Pago、トゥトゥイラ島)
- 面積:約199km²(7つの島々)
- 人口:約4.5万人
- 公用語:英語、サモア語
- 宗教:キリスト教(約99%、プロテスタント中心)
- 法的地位:アメリカ合衆国の未編入領土
「サモア」 ── 2つに分かれた島
サモア諸島は、19世紀末に分割されました。西部はサモア独立国(旧西サモア、1962年独立)、東部はアメリカ領サモア(1900年からアメリカ統治)です。1つの民族が2つの国家に分かれているというのが、サモア人の現実です。
「アメリカ国民ではなく、アメリカ国民非国民」
アメリカ領サモア人には、特異な法的地位があります。彼らはアメリカ国民(U.S. national)ではありますが、アメリカ市民(U.S. citizen)ではありません。そのためアメリカ本土での投票権はありませんが、米軍には加入でき、アメリカ領土のなかで最も米軍加入率が高くなっています。国民であって市民ではないという、アメリカ領土制度の独特の地位です。
「ラグビーとフットボール」
アメリカ領サモアには、世界的に有名なスポーツがあります。アメフトのNFL選手を多数輩出しており、「NFLゲートウェイ」として知られます。またラグビーでは、サモア独立国と並ぶ強国です。島の人口比で世界最高のNFL選手輩出率というのが、アメリカ領サモアの誇りです。
まとめ:高校生のデザイン、伝統と現代
今回のアメリカ領サモア旗のまとめです。
- 青地に、左の白い大きな三角形(赤縁取り)、ハクトウワシ、爪のウアトギとファウェ
- 1960年4月17日、フラッグ・デーに初掲揚(毎年の祝日)
- 設計者はファレティ・ソトア(サモアナ高校の生徒)
- アメリカ陸軍紋章学院が細部を整えた
- 青・白・赤=アメリカとサモアの共通の伝統色
- ハクトウワシ=アメリカ合衆国、爪のウアトギ(戦棍棒)=政府の力・自衛、ファウェ(蠅払い)=首長の知恵
- 「武器と知恵」のサモア統治制度(マタイ制度)の象徴
- 7つの島々、面積約199km²、人口約4.5万人
- 1900年からアメリカ領、未編入領土
- アメリカ領サモア人はアメリカ国民だが市民権はない(独特の法的地位)
- 「NFLゲートウェイ」、人口比で世界最高クラスのNFL選手輩出率
高校生がデザインした、伝統サモアと近代アメリカの融合。アメリカ領サモアの旗は、1人の生徒の発想が伝統と現代を1枚の旗に込めた、世界でも珍しい領土旗です。