国に1つしか旗がない、と思いがちですが、世界には「いま、複数の旗が並立している国」もあります。その代表格がアフガニスタン。テレビのニュースで見る旗と、オリンピックで見る旗が違う、と気づいた人もいるかもしれません。今回はちょっと敏感な話題なので、できるだけ事実だけを丁寧に整理していきます。


現状:2つの旗が「並んで」存在している

2021年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧して以降、国旗をめぐる状況がとても複雑になっています。

三色旗(黒・赤・緑)タリバン旗(白地に黒文字)
採用旧アフガニスタン・イスラム共和国(〜2021)アフガニスタン・イスラム首長国(2021〜)
中央紋章(モスク・小麦穂など)アラビア語でシャハーダ(信仰告白)
現状国連・オリンピック等の国際舞台で使用継続タリバン政権下のアフガニスタン国内で使用

タリバン政権は国際的に正式承認されていない国家として扱われており、国連や国際オリンピック委員会、各国のアフガン外交使節などでは現在も三色旗が「アフガニスタンの旗」として使われ続けています。一方で国内ではタリバン政権が三色旗の使用を禁じ、白地のタリバン旗の使用を義務化しています。

「どちらが正式か」については国際的に見解が分かれており、ここで断定はしません。事実として両方が併存している、という状況です。


「世界一、旗が変わった国」だった

アフガニスタンには、もうひとつ突き抜けた特徴があります。

CIA World Factbookによれば、アフガニスタンは20世紀に、世界のどの国よりも多く国旗が変わった国です。CIAの数えかたで「by one count(一つの数えかたでは)19回」と書かれており、これは20世紀の世界最多。数えかたによっては20回以上とする資料(Flags of the Worldなど)もあるくらい、とにかく変わりまくった国です。

特に極端だったのが1926年〜1930年の期間で、わずか4年間で7回も旗が変わっています。なかでも1929年は1年だけで6回もの変更があったとも報じられていて、もう「年単位」じゃ追いつかないスピード感です。

なぜそんなに変わるかというと、政体(王制・共和制・宗教国家・社会主義体制・タリバン政権など)が次々に入れ替わってきた歴史があるからです。旗は政治体制の変化をそのまま映す鏡なので、政体が変わるたびに旗も変わる、というわかりやすい構図です。


「黒・赤・緑」の三色は、欧州外遊から生まれた

現在ニュースなどでよく目にする「黒・赤・緑」の縦三色は、1928年に当時のアフガン国王アマヌッラー・ハーンがヨーロッパを外遊して帰国した直後に導入したのが始まりです。

国王は欧州各国を訪問するなかで、「アフガニスタンも近代国家として作り変えなければならない」という強い意思を持って帰国しました。その表れのひとつが、新しい国旗デザインでした。

それぞれの色には、次のような意味が込められています。

  • :過去の暗い時代
  • :独立のために流された血
  • :未来の希望とイスラム

この基本コンセプトは、その後の政権で紋章が変わっても、ほぼ受け継がれてきました(2004年制定の現行三色旗もこの流れです)。


タリバン旗のデザイン

タリバン旗は、白地にアラビア語でシャハーダ(信仰告白)「アッラーのほかに神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒である」が黒で書かれた、非常にシンプルなデザインです。

「白」は伝統的にイスラム教の中で清浄さを表す色とされていて、タリバン勢力がアフガニスタン・イスラム首長国を最初に名乗った1996年から使われています。2021年の復権以降、ふたたびこの白い旗が「現政権の旗」として国内で使われている、という状況です。


オリンピックや国連は、三色旗を使い続けている

国際機関がどう扱っているか、というのもこの話の重要なポイントです。

  • 国連:現在もアフガニスタン代表として三色旗を扱う
  • 国際オリンピック委員会(IOC):2020年東京パラリンピック(2021年8〜9月、カブール陥落後)でも三色旗を使用
  • 国際クリケット評議会(ICC):2021年クリケットT20ワールドカップでも三色旗を使用

これらの国際機関の判断には、タリバン政権下で女性スポーツが制限されている問題なども関係しており、「旧体制の旗を継続使用する」というスタンスが採られています。

つまり「国際的にはほぼ三色旗、国内ではタリバン旗」という二重構造が、いま現実に存在しています。


まとめ:旗が、その国の政治史をそのまま映している

今回のアフガニスタン国旗まとめ。

  • 2021年以降、三色旗とタリバン旗の2つが並立している
  • 国際機関(国連・IOCなど)の多くは三色旗を継続使用、国内ではタリバン旗
  • CIA World Factbookによれば「20世紀に旗がもっとも多く変わった国」─ ひとつの数えかたで19回(資料によっては20回以上の説も)
  • 1926-1930年のわずか4年間で7回(うち1929年だけで6回とも)変わったことがある
  • 「黒・赤・緑」の三色は1928年、アマヌッラー国王の欧州外遊後に導入されたのが原点
  • 政体が変わるたびに旗も変わる、という典型例

旗ひとつ取ってもこれだけ複雑な事情があるんだ、というのが今回お伝えしたかったところです。国旗を見ると、その国の政治史が見える。アフガニスタンはそれをいちばんわかりやすく示してくれる国かもしれません。